『しぜん』(クラスだより)

山の学校設立1年目の「山びこ通信」第1号(2003年7月刊行)からの記事です。(以下転載)

***  SENSE  OF  WONDER

『しぜんだより』 (担当:山下育子/山下太郎)

いつの頃からでしょうか。こどもたちが年齢を越えてみんなで花を摘んだり、木の実を見つけてとって食べたり、川に足をつけてメダカの群を追いかけたり、不思議なものを探したりしなくなったのは・・・。自然の中にある美しく神秘的なものを子どもたちと見つけ分かち合いたい! 毎回テーマを設定し、1学期はお山の周辺を楽しんでいます。

image002

“自然と遊ぼう!”──ある4月のクラス

  • 茶色っぽいもの5つ見つける
  • ちがうにおいのするもの5つ見つける
  • 色のちがうもの5つ見つける
  • ビニールやプラスチックでできたもの5つ見つける
  • 手触りのちがうもの5つ見つける

こんな紙に書かれた問題とビニール袋を片手に、お山のまわりを探しに出かけます。

「あっ、この葉っぱ裏がザラザラや」

「表面に毛がついてフワフワしてる」

「あっ、クサい!何これ?」

「ドクダミの葉!干してお茶にできるわ!」

「これ、ヨモギ。きず薬になる?」

「ヨモギだんご食べたい!」

皆のキラキラした目が次から次に発見していきます。草の茂み,ドングリやクヌギの木の下,砂の上・・・。目を見張ると普段見えないものも見つけられます。

──教室に戻ると、ひとりひとりの収穫物を机に広げ発表です。いつの間にやら春の珍しいキノコ“アミガサダケ”を採った子。

「よく見つけたね」

「それ、食べられるの?」

それぞれの発表に皆で大拍手です。

この日、Kちゃんが宝物の“アカハライモリ”を連れてきてくれました。

「ほら、お腹をひっくり返すと赤い色してるから、アカハライモリっていうの」とKちゃん。

「すごーい」

「どこにいてるの?」

「もらったんだけど、近くの川」

「イモリとヤモリと何が違うの?」

*図鑑を広げて調べながら、大切な“お客さん”を皆で拝見したひと時でした。

 

“ひみつの森へ行こう!”──ある5月のクラス

この日は春の光がキラキラするとても爽やかな午後でした。

「幼稚園のてっぺんから道がずーっとつづ

いていて、山の奥へ行けるんだけど行く?」

「やったー!!」

「行こう!」

そこでまた問題。

  • 問題1 森の中の好きな場所で1分間目をとじてまわりの音に耳をすませてごらん? どんな音がきこえてくるかな?
  • 問題2 足元に何が落ちていた?
  • 問題3 花を見つけてごらん? どんなにおい? 花びら何枚?

飼育ケース片手にワクワクドキドキでスタート! 松ぼっくり,サルノコシカケ,カラスの羽,ドングリ,腐った木の幹・・・。ほかにもいっぱい集めて帰りました。

「白い花があったよ」

「花びらは何枚?」

「数えられない」

「立ち止まってどんな音がした?」

「カラスの声」

「遠くで犬が吠える声」

「木の葉が風でサワサワゆれる音」

「海辺の波の音」

*山奥の自然のふところに身をおくと、子どもたちの心はセンス・オブ・ワンダー(自然の美しさと神秘を感じとれる心,感覚,喜び)であふれます。心のやわらかな小さな頃に、たっぷりと自然を仲間と一緒に共有し、豊かな気持ちがどこまでも満ちることを祈ります。

 

“スパイダーウェッブ” クモの巣づくり──ある6月のクラス

梅雨の真っただ中で雨ばかり。そんな雨の中でも黙々(モクモク!)と獲物をとるために巣を編みつづけている「クモ」。

いちどそのクモになったつもりで“クモの巣”を張ってみましょう。

  1. 板に巣の絵を描く
  2. 糸と糸の交点にクギをうつ
  3. たこ糸をクギに引っかけ編んでいく

人間のクモの巣張りは2回にわたり、苦労の末完成しました。完成後、外へ出てクモの巣考察タイム・・・。

「クモは雨の日はどこにいる?」

「巣に息をふきかけてみる?」

「ちょっと小枝でつついてみたら」

「きり吹きで水をかけると巣の形がよくわかるかも」

「巣がこわれても、あっという間にたった一人で作り直すクモはすごいね」

「糸はまずたて糸から張って、つぎにベタベタするよこ糸をうずまき型に張るんだって」

「それに獲物がつかまるんだ」

「巣を張らずにエサを探し回るクモもいるよ」

「ミズグモはきれいな水の中に、糸で空気の部屋をつくってすむんだって」

*人間がクモのかわりに巣を張ることの難しさ、大変さに加え、クモの糸の伸縮性,獲物をとらえられる強度など、人工ではまねのできないクモの世界を垣間みました。

image002

──5月のしぜんのクラスが終わったあと、クロオオアリの女王アリにお山の石段で出会いました。きっとオスアリと空中結婚飛行を終えて産卵場所を探して歩いているところでした。

羽を落としたところの大きくりっぱな女王アリに私は生まれてはじめて遭遇しました。是非とも飼育ケースに入れて産卵の様子を見たかったのですが、神聖なものを感じ、結局デジカメに収めるだけにしました。

8月28日(木)には、お山の幼稚園の卒園児で、アリの専門家、山岡亮平先生をお招きして子どもたちも興味深いお話を聞ける機会があります。とても楽しみです。

(山下育子)