西洋古典を読む(2021/9/22,29)

福西です。

『アエネーイス』(岡道男・高橋宏幸訳、西洋古典叢書)6.867-885を読みました。

英訳の『The Aeneid』(Robert Fagles訳、Penguin Classics)の該当箇所は、1000-1021です。

印象に残った個所です。

そなたこそがマルケルスとなるのだ。この手いっぱいに百合の花をくれ。(岡道男・高橋宏幸訳)

You will be Marcellus. Fill my arms with lilies,(Fagles訳)

tu Marcellus eris. manibus date lilia plenis(原文)

tu Marcellus eris.

お前が(tu)マルケッルス(Marcellus)となるのだろう(eris)。

アエネーアスにとっての未来、ローマ人の魂の行列。その中にいる、夭折の運命を持った若者。

マルケッルスは将来を嘱望されていました。

スエトニウスの「ウェルギリウス伝」によると、ウェルギリウスが上記の個所を朗読したとき、マルケッルスの母オクターウィア(オクタウィアヌスの姉)が卒倒したといいます。

それが絵の題材にもなっています。

Angelica Kauffmann – Virgil reading the ‚Aeneid‘ to Augustus and Octavia

 

885-6の「この供物を捧げ、はかない務め(inani munere)を果たそう」の

inani(はかない、空虚な、実のない)

という単語からは、第1巻の「ユノの神殿の絵」を思い出します。

あのときは、

animum pictura pascit inani 1.464

精神を(animum)実のない絵で(inani pictura)(アエネーアスは)養った(pascit)

とありました。

第1巻の絵は、トロイア戦争という過去。

第6巻の魂の行列は、ローマという未来。

どちらにも涙が流れています。