福西です。
『はてしない物語』(エンデ、上田真而子ら訳、岩波書店)、「ⅩⅤ 色のある死グラオーグラマーン」の後半を読み終えました。
「ここには生と死、ペレリンとゴアプがあるだけです。物語がありません。あなたさまはご自身の物語を体験なさらなくてはなりませぬ」
グラオーグラマーンは、今の「二人だけ」の世界から出るために、バスチアンに「千の扉の寺」の現出を望めと促します。
そしてまた、アウリンに刻まれている「汝の欲すること」ほど、人を迷わせる道はないのだと諭します。「真に欲すること」とは「自身の深い秘密を探ること」なのだと。けれども、バスチアンがそのことを身をもって体験するためには、「ⅩⅩⅤ 絵の採掘坑」でのヨルとの出会いを待たねばなりません。
バスチアンに新たな望みが生じます。
これ以上一人ぼっちでいたくないという望みだった。(…)自分の数々の能力をほかの人に見てもらい、感嘆され、名声をあげたくなったのだ。
再び時が来て、グラオーグラマーンは石になります。すると、寝室に通じる扉から光の筋がさします。バスチアンはそれが「千の扉の寺」に通じているかもしれない、と思います。「ちょっとの間見てくる」つもりで、彼はグラオーグラマーンのそばを離れます。「ぼく、またくるよ。きっともどってくる」と言い残して。
けれども、その約束が果たされることはないのでした。
ここでの出会いと別れが、バスチアンの内面をどれほど作り変え、また支えていくだろうことを思うと、胸が熱くなります。