昨年のイタリア語講読クラスでは、わたし自身にとって記念すべきことが二つありました。
ひとつめは、テクストの翻訳が出版されたこと。山びこ通信の前号で柱本先生が紹介されていたとおり、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の映画「鑑定士と顔のない依頼人」の原作小説です。わたしにとって何が記念すべきかといえばなによりも、ありがたくも拙名をあとがきに入れて頂いたことで、自分の名前が文芸書に印刷されるなんて、きっと一生に一度のことだと思います。
ふたつめは、モーツァルトのオペラ「ドン・ジョバンニ」のテクストを読んだこと。X年前、大学での第二外国語としてイタリア語を始めた当時18歳のわたしは、なぜイタリア語を選択したのかという問いに対して、「オペラを原語で理解できるようになりたいから。」と答えたのだそうです(この発言、自分ではまったく覚えておらず、当時のわたしがそんなことを言っていたと卒業後10年以上経って再会した同級生から聞かされた時には、恥ずかしくて倒れそうになりましたが)。以来X年が経過し、初めてオペラのテクストを勉強することになって、ついに目的に到達…到達の「と」の一画目を書き始めたところくらいですが…ということで、これまた記念すべきことでした。このテクストでは、韻律や倒置で混迷に陥りながらも、あのアリアだなと旋律を思い出したり、ドン・ジョバンニの業の深さに感じ入ったり、イタリア語の音の美しさを改めて感じたり、楽しい時間を過ごしました。
語学の勉強は、小さな楽しみを拾いつつ淡々と積み重ねていくような性質のもので、記念すべき、などという出来事は稀だと思います。そういった意味でも昨年は特別な年だったなと感じています。手前勝手な感慨を書き連ねましたが、このような有り難い経験をできるのは、辛抱強く教えて下さる柱本先生、少人数のクラスを続けて下さる山下先生、また、寒い日に離れの教室を温めておいて下さる山の学校の皆様のおかげです。心より感謝申し上げます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。(F.N.さん)