『現代世界史』クラス、受講生募集中!

 オンラインのみ 現代世界史クラス(高校生・大学生・一般) 

📖テキスト:『オリエンタリズム(上巻)』(エドワード・W・サイード)など

 月曜 21:40~23:00  講師:吉川弘晃

<2024年度>

2024年度の全体テーマは「オリエンタリズム批判の再検討」です。今日の私たちの世界を作ってきたのは、近代の「西ヨーロッパ」であるという常識が今もうっすらとあります。国民国家や資本主義、民主主義、議会、学校、工場、病院。19世紀以降、西欧列強がアジア・アフリカに進出して便利な生活をもたらしたことは確かですが、一方で民族や人種、宗教、性差、学歴といった様々な要素で、人間や地域に序列をつけ、新しい差別や暴力を正当化しました。そしてそれは今も続いています。

「欧米的価値」に基づく差別は許せない。だがそれを差別する方もされる方も受け入れてしまった近代の現実をどう説明するのか?これに対し、比較文学者のエドワード・サイードはこう答えます。「アジア人」や「アフリカ人」というのは、「ヨーロッパ」が自分自身を他の地域とは異なる優れたものであるという刷り込みを行うために、学問や芸術の名のもとに、でっち上げられたものに過ぎない!彼はこの歪曲と偏見(ステレオタイプ)を再生産していくような表現の風潮を「オリエンタリズム」と呼びました。

この議論は、私たちが当然とみていた日常的な差別につながる言動を見直すきっかけを与え、それまで差別されてきた人々に声を与えたのは事実です。一方、加害者(ヨーロッパ)と被害者(アジア)を必要以上に対立させ、両者の関係を作り直すことを難しくするという問題が新たに生まれました。例えば、中東やアジアの人や文化を本気で愛し、現地と真摯に交流しようとした欧米の「東洋学者(オリエンタリスト)」たちの努力は全否定されるべきなのでしょうか。また、アジアや中東を侵略しつつ、欧米に戦争を仕掛けた昔の日本や今のロシアは「東洋」と「西洋」のどちらに入るのでしょうか?

サイードの「オリエンタリズム論」は、世界を考える上で便利な道具であると同時に、濫用すれば危うい凶器にもなりえます。出身地のパレスチナでの紛争に最後まで悩みながら亡くなった彼に敬意を捧げつつ、この授業ではまずはサイードの議論をしっかりと確認した上で、それを批判した2冊の本を比べて読むことで、彼の議論の問題点を浮き彫りにしていきます。人文・社会科学に関心ある人であれば、誰にとっても有益な内容かと思いますので、みなさまの参加を心待ちにしております。

以下のテキストを、順番に講読します。

春学期:『オリエンタリズム(上巻)』(エドワード・W・サイード、平凡社1993年)

学習内容:ポリティカル・コレクトネスの理論的前提の一つをなすサイードの「オリエンタリズム」批判の肝を学んでいきます。今日の研究では、彼の議論は様々な分野・領域に拡大適用されていますが、本家本元が頼る根拠は、実際にはそんなに広くはありません。この点に注意しながら、ヨーロッパが〈他者=オリエント〉を知ろうとすることは、彼らを支配することである、というテーゼを再検討していきます。

秋学期:『逝きし世の面影』(渡辺京二、平凡社2005年)

学習内容:本書は、明治以降に日本から失われてしまった近世の風景を鮮やかに描いた作品として知られています。興味深いのは、著者があえて欧米旅行者の記述を主な根拠として使っているという点です。ここには実は、20世紀の日本人はもはや、江戸の人々と同じ目線を共有することはできない、ゆえに我々は欧米人の「オリエンタリズム」を批判する立場にはないのだという強烈な批判意識が籠っています。異なる背景や価値観をもつ「世界」同士がどのように関わっていけるのかをサイードを越えて考えていきます。

冬学期:『虚飾の帝国:オリエンタリズムからオーナメンタリズムへ』(D・キャナダイン、日本経済評論社2004年)

学習内容:本書はその原題「オーナメンタリズム」が示す通り、サイードの議論に歴史研究から立ち向かうものです。「オリエンタリズム」批判では欧米による差別的認識が作られた場としてフランスとイギリスが挙げられていますが、イギリス帝国は実際には、むしろ統治下にある様々な集団に対する様々な配慮から成立していたというのが本書の見立てです。支配する側とされる側の一筋縄ではいかない政治・経済・文化的な関係を様々な事例にもとづいてダイナミックに考えていきます。

<2023年度>

この授業では、19世紀後半以降の「現代世界史」を最近の歴史研究(新書など)を通じて学んでいきます。この20年間、特にIT技術の飛躍的な発展が政治・経済・文化、その他多くの局面で「世界の一体化」を推し進めましたが、その流れは16世紀(大航海時代)、さらに14世紀(モンゴル世界帝国)にまで遡るとも言われております。しかしながら、ヨーロッパで確立されたスタイルをもつ諸制度(資本主義・近代国家・衛生・大学・鉄道…)が不可逆的にその他の地域へ拡大していくという意味で、「世界の一体化」が不可逆な流れとなるのは19世紀半ば以降です。ただし、ヨーロッパからの影響は一方向的であったわけでなく、他方でアジアやアフリカの各地域から、こうした「西洋化」に対する自律的な反応(受容・反発・変容)が見られたことも(特に20世紀以降は)確かです。このように世界が本格的に一体化していく様を扱う「現代世界史」について、講師と受講生が一緒にテーマを決めて学んでいきます。

この授業は以上の趣旨にもとづき、春・秋・冬の3学期をかけて行われます。それぞれの学期でひとつの目標とそれに適合したテキストを読んでいくことになります。独立して受講することも可能ですが、連続して受講すれば、より体系的な知識と思考を鍛えることができるでしょう。

2023年度の全体テーマは「世界資本主義の歴史と理論」です。全球化(グローバリゼーション)がもたらした市場経済の加速は、新たなビジネスや文化交流を生み出す功の側面だけでなく、貧富の拡大や環境破壊といった負の側面のほうが注目されるようになってきました。世界規模での疫病や戦争の激化は、貧困・暴力・差別をさまざまな場所で深刻なものにしています。

資本を再生産するために人間を収奪するシステムをやめよ!その心意気はよろしい。でも、なぜそうなってしまったのか?いつからこの世界は変わってしまったのか?その問題に取り組まねば、人類は20世紀の血塗れの経験を別のやり方の繰り返し、あるいは「この道(資本主義)しかない」という諦めに落ち込むことでしょう。

私はそれに対処する思考の小さな一歩を<歴史>に求めたいと思います。ここで言う<歴史>とは、並べて遊ぶための過去の情報の集合体でも、現在の世界を正当化するためのものでもありません。私たちが忘れ(させられ)てしまった事実や思考、物言いを、驚きとともに思い出し、私たちの<ここ・いま>の「当たり前」を疑いなおし、新しいやり方で未来への道を考えるための物語なのです。

春学期(4月〜7月)【理論編】

「現代世界史」を理論的に俯瞰できるようになることを目指す

テキスト:ウォーラーステイン(川北稔訳)『史的システムとしての資本主義』岩波書店、2022年

学習内容:「世界システム論」を発案した社会科学者による世界資本主義史のスケッチから、彼の理論の肝を学んでいきます。19世紀以来のマルクス主義(唯物史観)やその裏返しである近代化論は、人類は場所を問わずに「資本主義」段階(合理化・貨幣経済・賃金労働中心)へと進歩することを前提にしてきた。だが、西欧のごく一部以外の広大な歴史的事例を見れば、そうは問屋が卸さないということが分かる。アジアやアフリカ、特に植民地化や経済的支配を受けた地域から見ると、世界資本主義の構造と変化はどのように考え直すことができるのか?

秋学期(9〜12月)【実践編(1)】

「現代世界史」が各地域・領域で展開される過程を具体的な歴史的事例にもとづいて理解できるようになることを目指す

テキスト:アブー=ルゴド『ヨーロッパ覇権以前:もうひとつの世界システム』(上・下巻)岩波書店、2022年

学習内容:ウォーラーステインは、分割された国家権力の陰で市場を統合化していく「世界システム」は、15世紀の西欧に発して19・20世紀にかけて全球的に拡大していくと考えた。これに対し、アブー=ルゴドは、すでにそうしたシステムは13世紀のユーラシア大陸に立ち上がっていたと反論する。「近代/ヨーロッパ」中心主義のもとモンゴル帝国が各地域をつないでいたという世界経済とはいかなるものであったのか。そしてそれはなぜ忘却されてしまったのか?

冬学期(12〜3月)【実践編(2)】

「現代世界史」についての理論的基礎と事例研究を踏まえた上で、両者を前提としてあるテーマに焦点をあてた研究のあり方に触れることを目指す

テキスト:黒田明伸『貨幣システムの世界史』岩波書店、2020年

学習内容:資本主義とは何か?ひとはなぜモノとモノを交換して「儲けた」ように感じるのか?この問題は突き詰めれば「貨幣とは何か」というアリストテレス以来の問いにだどりつくだろう。本書は、ここまでで学んだ「世界システム論」とその批判を踏まえ、前近代の世界各地を国境を超えて結んでいた貨幣の動きについて、具体的な事例から検討していく。敢えて19世紀よりも前の時代を中心に捉え、「世界の一体化」を経た私たちには見えずらくなった場所から、「現代世界史」における世界資本主義のあり方を逆照射していく。

<2022年度>

春学期(4〜7月)
<理論編>「現代世界史」を理論的に俯瞰できるようになることを目指す

テキスト:『時間の比較社会学』真木悠介(岩波現代文庫)

秋学期(9〜12月)
<実践編(1)>「現代世界史」が各地域・領域で展開される課程を理解できるようになることを目指す

冬学期(12〜3月)
<実践編(2)>「現代世界史」について理論的基礎と日本からの視点を踏まえた上で、日本以外の地域に関する近現代史のテキストを選んで学習。

 

<2021年度>

春・秋・冬学期でそれぞれ以下のような目標・テーマのもとで教科書を選びます。
春学期:理論編。「現代世界史」を理論的に俯瞰できるようになることを目指す。ナショナリズム・資本主義・社会主義・歴史哲学・文化理論など、20世紀以降の人文・社会系の学問を学べるような教科書を選ぶ。やや抽象的で難解に思われるかもしれないが、講師は一節ごとに解説を加え、参加者の質問に丁寧に答えていくよう心掛ける。
秋・冬学期:実践編。「現代世界史」が各地域・領域で展開される過程を理解できるようになることを目指す。春学期の理論編を前提としているが、秋・冬学期からの参加者も歓迎する。理論編に比べて具体的かつ事例に即したものであるが、常に世界全体での位置づけを考えられるような議論を作るよう講師・参加者ともに心掛ける。秋学期は日本に関する、冬学期はそれ以外の地域に関する教科書を選ぶ。
<テキスト候補・授業の進め方>
授業の進め方としては、①講師が指定した範囲を生徒さんが読んでくる(可能であれば要約を行った上で疑問点や論点を列挙する)、②授業では教科書の内容を確認、それを自分の言葉でまとめる練習を行う(背景知識は講師が提示)、③生徒さんが挙げた疑問点や論点についてクラス全体で議論する、というものです。
テキストについては必ずしも「現代」を直接扱うものに限らず、「現代世界」を理解する上で重要なもので様々な視点をもつ(なおかつ入手しやすい)ものを新旧バランスよく選びました。勿論、各自読みたいものがあればそれをテキストにすることも可能です。お気軽にご相談ください。

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