■基本理念
1.こどもたちの好奇心・創作意欲にまかせ、表したい物事・表す素材と、心ゆくまで向き合う時間とする──「鉄は熱いうちに打て!」
例えば毎回、白い画用紙を提供し「はい、自由にすきなものを描きなさい」と言えば、それなりに教室らしきものが成立するのかもしれません。一定時間、同じ部屋で、互いの創作を見ながら刺激し合う事は、有意義でしょう。
しかし、好きに絵を描いたり、工作をしたりすることは、ものづくりの好きな子供なら、誰に言われるともなく教室外でそれを実践しているものです。それでも教室に志願して来るという事は、単純に「描く事、創造する事が好きだから」という理由の他、何らかの期待、好奇心を抱いているからであり、何よりも先生や友達、誰かが「見ていてくれる」という環境を無意識のうちに望むからだと思います。
「何かおもしろいこと」を期待する声に応え、みんなが時間を共有する事の意味を深められるようなクラスづくりを目指したいと思います。
そのためにまず、各々が抱いている興味や、教室で何をしたいか、どうして教室に来ようと思ったか、小学校の図画工作ではこれまでどのようなことをし、何が楽しかったか等々、一人一人の声を聞き、対話することからはじめます。
また、一年間の組立てや目標は事前に定めておきますが、それらに子供たちの意見や発想、「これがしたい!」という気持ちを重ね合わせながら、内容や時間配分の柔軟な調整を行うつもりです。「こうでなければならない」という考え方は、とたんに創作活動を面白くなくさせます。
「こうしてみよう」「ああしてみよう」「これをしてみたい」という、生徒の発想や熱意を大切にし、皆で一緒に教室を作っていきたいです。
また、とことん納得の行くまで取り組むことが許されている、そんな時間の流れている教室にしたいと思います。何の気負いもなく、夢中になれる。これこそが、こどもたち誰もが持っている最大の才能だと思うからです。熱い鉄を打ちまくって欲しいと思います。
2.こどもたちの好奇心を高め、発想を広げるための「きっかけ」をつくる。
素材、技法、こんな面白い事をした芸術家がいる等、新しい知識を得る事で、創作の幅は間違いなく広がっていくものです。教室では時々、具体例を見てもらったり、時に実演を伴いながら技法や手順の説明をしたりします。ただし、あくまでよき「ヒント」として留め、制作の幅を限定してしまうような「先入観」とならないように注意するつもりです。
例えば、ある制作が終わった後、互いに発表し、感想を述べ合い、その際に初めて作家の作品等、具体例を紹介するようにします。友達、他者の発想を知れば「今度はもう少しあんな風にしてみよう」と、新しいアイデアや、動機が生まれる事でしょう。同じ取り組みを幾度か繰り返してみることも、豊かな表現にとって必要なことです。
技法に関しては、「描くものと、描きつけられるものさえあれば、絵は描ける。」という自由な見方を失わないためにも、またそうした自由を獲得させるためにも「画材の持ち味」や「基礎的技法の仕組み」について理解することも大切です。まず、そのための色々な課題に挑戦してもらい、応用編となる自由制作へと繋げていけるような流れ、様々な引き出しから各々が発想し、工夫や実験を重ね、自ら学んでいく姿勢を大切にします。
3.描くことは「発見」すること
『かいが』では、山の学校の特徴的環境を生かし、身近な自然を観察する時間を大切にします。何かを「見て描く」という行為は、対象に想いを巡らせ、物事を捉えんとする積極的眼差しを養い、そこから色々な事柄を見出す経験です。このプロセスこそが大切であると考えます。
-ものごとを発見する
なかでも「自然」は絵画にとっての最良の先生です。山や空、草花や生き物の形態は、真理めいた美しさに満ちています。色や質感、形それ自体が、そのもののありようであり、生きざまであるからなのでしょう。そこには力強い「意思」があるようです。彼らから得られる無数の「発見」が感動を生み、そのまま描きたいという衝動に繋がるはずです。描く対象が人であるなら、その人の心をまでも見つめる事になるでしょう。描く事は、対象(の本質)を見出す事であり、さらには対象に愛着を見出す事でもあると感じるのです。
-素材を発見する
一方、描く事は、そのための素材と向き合うことでもあるので、それらとじっくり向き合い、持ち味を生かそうと試行錯誤する中でうまれる工夫や「発見」もあります。基本的には身近で素朴な材料を用いますが、本格的な水彩紙や、様々な動物毛の筆に触れ、新しい発見をしてもらうことも考えています。
-ともだち・じぶんを発見する
また、教室では「互評会」の時間を設け、大事にます。どれ一つとして自分とは同じではない、友達の絵の中に、新たな友達の一面を「発見」する事でしょう。それは、自分自身を発見する事でもあります。
そのように、各々が違った感性、「らしさ」を持っている事を認め合い、讃え合うことが何より肝心です。「芸術に答えはない」というのは、言い替えれば「無数に答えがある」ということです。無限の可能性の中からたった一つの答えを勝ち取る事の喜び、讃え合う事の喜びを、皆さんと共にしたいと思います。
創造する数だけの成功が生まれる、そんな意識を持って欲しい、臆する事なく表現することの力強さを知って欲しいです。或は既に、こどもたちは無意識にそれを知っているのだと思います。
だからこそ、その感覚を大切に守りたいと思います。各々が感性に目覚め、それらを存分に発揮する事が出来れば理想的です。感じる事で見出される真実を、どんどん作品に焼き付けていって欲しいと願っています。
■こどもたちに伝えたい事いろいろ
・「視点」を持つ事の面白さ
例えば、「一本の木を描きたい」と思ったとする。「さて、どんな風に描こうか・・・」と考えてみる。その木と出会った瞬間、「あ、いいなあ」と感じた瞬間に立ち止まり、無心に描き始めるのもよいだろう。
さらに、その木の「いいところ」をもっと知りたいと思うかもしれない。そんな時、きっと、もっとその木に近づいてみたり、裏へ回ってみたり、色々な場所から見てみたくなるだろう。
どこから見るか、どこまで近づいて見るか、どこまで遠ざかって見るか、それは全くの自由だ。決まりなんてない。「どう見るか」それを考える楽しさ。そして、出来上がった作品を互いに見せ合うときに発見する「違い」の面白さ。これを味わってほしい。
・「好きな色」を持つ事の嬉しさ
「このりんご、真っ赤っかで、おいしそうだなあ」
と思ったら、その赤を、こっそりと盗んでしまおう。それは、君だけの赤になる。
「この葉っぱのみどりは、鮮やかできれいだなあ」
と思ったら、そのみどりを、こっそりと盗んでしまおう。それは、君のみどりだ。
絵の具のチューブをしぼって、塗ったり、混ぜ合わせたりした時、
「あ、この色、素敵だな」と思ったら、それは、君の色だ。その色で、君の描きたい世界を染めてしまおう。もっとも、「すきな色」なんて、持たなくってもいいんだ。色々な、その時々に見た色、感じた色を、可愛がって、描けばいいんだ。
・「好きな画材」に出会う喜び
教室では出来るだけ様々な画材(水彩、アクリル、色鉛筆、コンテ等々)を体験してもらい、味わいを知ってもらいたい。その中でいつしか自分の気質に合った画材が見つかるかもしれない。
更なる表現を追求すべく、それらを積極的に使用して制作に取り組んでもらうのもよいだろう。画材の持ち味や、お気に入りを分かった後では、できるだけ生徒の要望に応え、必要とする画材を提供し、指導していきたい。
・観察、発見の喜び、何を描きたいかを考える楽しみ
物事を観察すればするほど、発見にはきりがなく、気づかなかった事に沢山気づき、そこには驚きや喜びがある。それはそのまま「描きたい」という衝動に直結する。自然の事象を観察する事を通して、感動はそこら中に満ちあふれていて、見いだす事が出来るのだということを体感して欲しい。(あるいは子供たちは既に、そのことをよく知っているのかもしれない。)
そこから、「そのものの、そのものらしさ」は何だろう、と考えたり、質感や形を発見したり、「そもそもどうしてこんな色かたちをしているのだろう」と考えたりすることで、そのものに対する興味や愛着が深まって行き、あらゆる分野へと関心が連鎖していく楽しみも知って欲しい。それを止めないで欲しい。
・気持ちは本当に絵に込める事ができる
家族や友達、大切な人、大好きな人に、見て喜んでもらいたい、プレゼントしたい、と考えて絵を描くときほど、筆が走り、楽しい充実した時間はないと思う。そして、そうした想いは、自ずと表現に磨きをかける事につながると思う。
また、優しく、優しく・・・と心で唱えながら描けば、優しい線やタッチになり、力強く、力強く・・・と心で唱えながら描けば、そのような表現となるのは本当である。
どんな風に描こうか・・・と思案する。このことは「技法の発明」に繋がると思う。やり方を考える事こそが楽しい。その時、ヒントとなるいくつかの基本的技法の引き出しがあれば、それを応用していく事が可能となり、これがまた楽しい。
■その他のねらいー『かいが』クラスのルール
・道具やものを大切にする。
・ともだちの感性を大切にする。
・時間を大切に、一生懸命たのしむ。
(文責 梁川健哲)