5/21 歴史入門(高校)

吉川です。前回に引き続き、川北稔『イギリス近代史講義』輪読第2回です。

今回は第2章についてとりあげたのですが、時間が余ったので補足説明として大塚久雄の話をしました。

まずは要約から。

2、「成長パラノイア」

・近代化=「発展」の精神(宗教的強迫観念、自己顕示欲、…)

17世紀以前と以後の比較、昼寝と残業どちらを選ぶか?→17世紀以前:「レジャー選好」「低賃金」/17~20世紀:「勤勉化」「高賃金」

・世界システム論:ヨーロッパとアジア(インドや中国)の体制の違い

ヨーロッパ:主権国家、国王(相対的権力)=政治的分裂、分業化発達、開放的→競争・発展の経済

アジア:帝国、皇帝(絶対的権力)=政治的統一、分業化発展途上、閉鎖的→統制・停滞の経済

・政治算術:実際の数を根拠にした議論

ルネサンス以後の近代自然科学:イギリス帰納法vs大陸演繹法

統計学の発展→合理化・厳密化→あらゆる側面で「境界」が求められる。

ぺティの法則:第3次産業(オランダ)>第2次産業(イギリス)>第1次産業(フランス)

社会福祉:人口調査

 

まずは近代化の根本にあるのが、「今日は昨日より、明日は今日よりも良くなっていなければならない」という考えであり、確かに現在のGDPなどを見ると、成長率が0までいかないとしても伸びないというだけで「衰退」が叫ばれます。よく考えれば、下がってはいないのになぜこんなに大騒ぎしなければならないのか。資本の再生産という話はおいておくとしても、こうした発展への強い執着心があるのは確実です。例として昼寝の話が上がっていました。給料が2倍になるとしたら、労働時間を短くして休むか、労働時間を長くして収入を上げるかで時代の価値観が分かれるというものです。ちなみに、私は21世紀以後は、20世紀までの「勤勉・高賃金」に執着するあり方が続くとはいえないのではないかと意見しました。

さて、今回の箇所で次に出てきた世界システム論におけるヨーロッパとアジアの比較は最初の3回の私の授業で取り扱ったところであり、いわば復習にあたります。生徒さんはよく理解していました。

3番目の議論である政治算術はこれもまた大事な話です。近代というのは、数や分類といった地に足の着いた概念によって現実を認識していこうという合理主義が作られていった時代です。ちなみにぺティの法則と人口調査のところで補足を行いました。

前者については、筆者自身の第3次産業重視の主張を補うために挙げたのだと考えられますが、フランスでは重農主義という第1次産業重視の考えがあったことも考慮に入れなければ、中立的な観点は得られません。

人口調査については、社会福祉との関連も重要ですが、その至上目的といえばやはり税金をとることです。近世を考えるうえで忘れていはいけないのは、当時の政治の最大の問題は、中央集権体制を支えた常備軍と官僚制を維持する莫大な金をどこからもってくるかというものでした。イギリスは名誉革命でオランダと事実上の合邦を果たすことで、世界最大の金融市場を手に入れ、それをもとに国立銀行を作り、国債、つまり国が自身を担保にして莫大な金額の借金をできるというシステムを作ることに成功しました。これによってフランスとの植民地戦争に勝利していくのです。学術用語ではこれを「財政軍事国家」といいます。

このように近世・近代という時代は、金融や経済が政治の中心になっていく時代であるというのは重要なことです。重商主義と重農主義についての説明も行ったところ、好評でした。

ちなみに、今回は前回の話しに引き続いてイギリスの地名が数多く登場したので1つひとつ地図で確認していきました。生徒さんは、発展する都市が時代ごとに変化するという事実に興味を示していました。