吉川です。報告が遅れてすみません。
さて、全3回のプロローグ講義(歴史の色眼鏡=史観の話)を終えて、今回からさっそく本格的にゼミ形式の授業に突入しました。
今回取り上げるのは、川北稔『イギリス近代史講義』(講談社現代新書)で、筆者は日本にウォーラーステインを紹介して自身もその手法を研究に積極的に取り入れて日本独自の西洋史発展に大きく貢献している方です。
この本を何回かに分けて読みながら議論していくわけですが、今回はプロローグと第1章をとりあげました。内容の要約は以下の通りです。
0、プロローグ
・なぜ歴史を学ぶか?(世界史の非必修化)
・イギリス衰退論(⇔近代化モデルとしてのイギリス像)
・筆者の立場(「普通の人間の生活」→社会史)
1、都市の生活文化
・童謡「赤とんぼ」の例→都市化とはどういうことか?
・都市研究の歴史(中世中心→近現代も対象に)
・「都市」とは何か?→匿名性
・社会単位としての「家族」→近世イギリスでは①単婚核家族②晩婚③少年期の奉公
・福祉国家の伝統→救貧法(高齢者、寡婦が対象)
・農村から都市への人口移動→①大塚史学:「独立不羈のヨーマン」(ピューリタニズム)⇔②川北稔:上流にあこがれる中産階級
・有閑階級としてのジェントルマン・レディ→①自由業(金融の発展)②消費文化
・「外見」を気にする時代:「見られる空間」としての都市→ファッションの流行、消費社会の誕生→需要拡大、経済発展へ
・都市の発展:サービス産業→州都市・地方都市の発展→付近のマーケットセンターの充実化→ニュータウン形成へ
今回取り扱った部分では、イギリスの近代化を説明する前段階として、都市や家族、有閑階級といった基本的な社会概念について議論しています。
ということでまだまだ本論には入らないのですがすでに生徒さんは自分なりの考えをもって文章に取り組めていました。
例えば、単位としての家族の話で、イギリスでは伝統的に晩婚であるという話から少子化の議論が出てきました。ちなみに私は、E・トッドという人口学者の話を出して、ヨーロッパの中でも家族形態には違いがあるという話をしました。例えば、イギリスやアメリカではたとえ2世代であっても子供は成長したら親から独立しますが、ドイツやロシアでは2世帯で一緒に住むことも珍しくはありません。
また、人口の話では前回まででやったお話が出てきました。そう、大塚久雄の産業革命論ですね。この本の核にもなってくるのですが、大塚一派は、近代化の鍵を「生産」において(マルクスの議論)なおかつ、プロテスタントの厳格な精神といった上部構造の議論をヴェーバーから取り入れていました。それに対して、筆者は近代化の鍵を「消費」において(ゾンバルトやヴェヴレンの議論)当時の消費社会の発達を考慮しながら、金融や物流といった要素に注目しました。