4/23 歴史入門(高校)

吉川です。今年2回目の授業になります。とはいえ、前回は顔合わせと自己紹介で半分くらいすごしてしまったので、本格的な授業は今回からとなります。

さて、この授業は、講師と生徒様で一緒に読む本を選び、当日はその内容について議論しながら、「歴史」という枠にとらわれない幅広い知識を手に入れるとともに、それらを自分の言葉で表現できるような力を身につけることを目標にしています。

しかし、今回は前回説明した時代や地域ごとの歴史に対する見方(史観)をもう少し詳しくやってほしいとの生徒さんの要望に答えて、イントロダクションの続きをやることにしました。

今回話したのは「マルクス主義史観(唯物史観)」です。ソ連が崩壊した今、このような歴史観は時代遅れのように見えますが、19~20世紀で驚くほどの影響力を保っていたことを考えると無視せざるを得ない存在です。以下のような順番で授業を進めました。

①マルクスの時代

マルクスは1818年ドイツで生まれ、1883年にイギリスで世を去ったということで、まさに19世紀を生きた人間といってよいでしょう。生徒さんに1818年あたりについて何か思いつくことはないか質問したところ、「産業革命」という言葉が出てきました。そうです。実際に19世紀にはイギリスから始まった産業革命はベルギー、フランス、ドイツというふうに広がります。生産力が飛躍的に拡大して経済規模が大きくなったものの、貧富の格差も目に見えるようになりました。マルクスが『資本論』を書くきっかけの1つです。しかし、こうした経済的な視点から、政治的な視点に切り替えると、19世紀は、フランス革命終結→ナポレオンの栄光と挫折→ウィーン会議による復古体制→ヨーロッパ各地での革命・・・、まさに「革命」の時代であり、国のあり方をどうしようかと多くの人々が考えた時代だったわけです。

②ヘーゲル

マルクスの歴史観は、発展史観(直線的に歴史が進んでいくという見方)ですが、この原型になったのはヘーゲルだといえます。ヘーゲル史観については前回の授業で説明しました。復習のために生徒さんに説明を求めたところ、ちゃんと理解していたようで安心しました。ヘーゲルの説明では歴史を動かす源は理性で、歴史の発展は自由の拡大という形で目に見えたのですが、「理性(神)」だとか「自由」だとか形而上に偏りがちです。

③マルクスの世界観

マルクスは人間の本質を労働と考えました。これは人間は自然に働きかけることによって(森を切り開いたり治水工事をしたり)生活の場を広げてきたということが土台になっており、ある意味で人間だけの歴史を否定して自然をも考慮に含めたということになります。また、彼の社会観で大事になってくるのは、人間は本質的に関係の中でしか生きられない動物だということです(類的存在)。人はひとりで生きているわけでなく、常に自己と他者を意識しながら生活して社会を形成しているわけです。

④マルクスの社会観

マルクスによれば、社会は上部構造と下部構造で出来ています。上部構造は政治・法律や社会意識(宗教など)、下部構造は生産関係でできてます。生徒さんに何が違うのかと聞いてみたところ、上部構造は「精神的なもの」という答えが出てきました。必ずしも遠からずといった感じです。政治や宗教はそのものを具体化して見たり触ったりすることが出来ません。私は貨幣の例を出して説明しました。1000円札という紙切れをお店に渡せば腹が膨れるのは、社会の中で、「貨幣」という通念が存在するからにすぎないわけで、貨幣そのものが無条件で物と交換できる能力があるわけではないのです。上部構造の影響を受けつつも、下部構造は矛盾を大きくしていきながら回っていき、ある地点で構造の転換が起こり、上部構造も変わっていきます。つまり経済形態が政治形態と連動して歴史が動いていくわけです。

ここまでの説明で60分ぐらい使ってしまったので、別の史観の説明はまた来週にすることにして、本の紹介(日本史編)を行いました。長くなるのでタイトルはまた今度書きますが、生徒さんは近現代のものに興味を示していました。

次回は、マルクス主義にかわる歴史の見方である「世界システム論」や「アナール史観」についての説明を行い、一緒に読んでいく本を決めたいと思います。