福西です。今学期もよろしくお願いいたします。
初回は、松本幸夫先生の『トポロジーと私の青春時代』というエッセイを輪講しました。
全部は中高生にはまだ内容が難しいので、前半の、松本先生が小学校から大学に入って研究するまでの部分と、最後の結びのところだけを読みました。
小学校時代に恩師から頂いたというごく薄いドリル(鶴亀算の問題)に、一日中ちゃぶ台の前で向かっていたことや、中高時代にオイラーの公式を教えてくれた数学の先生のこと、大学時代に面白さが感じられなかった講義を自分なりに面白くしようとして、研究のようなものを始めたこと。その時、二つのヒット作があって、一つは今でいうオイラー関数をオイラーとは「独立に」発見したこと、もう一つは、数学セミナーの「エレガントな解答をもとむ」の欄にあった問題の「拡張版」を考え、そこで求めた公式が、いまだ証明されていない(そして現在も「予想」とされている)式だったこと。
そのように、自分の頭で必死に考えた数学が、いかにも「手作り流」であったにせよ、それがともかくも今に至る原動力であったということを、思い出しながら書かれた内容でした。このような勉強の仕方もあるのだということが、今の中高生である生徒たちにも、学びのヒントになるのではないかと思って取り上げました。
後半の時間は、これまであまり説明してこなかった『原論』の第1巻の定義を、学期の初めということもあり、これを機に一つ一つ確認していきました。
定義1「点とは、部分を持たないものである」
定義2「線とは、幅がなくて長さがあるものである」
定義3「線の端は、点である」
といった具合で、23個に挙がっています。そのような箇条書きが、面白くないといえば面白くないかもしれませんし、面白いと言えば、面白いと思います(笑)。文の短いものやら、やたら長いものやら、色々です。中には当たり前に思える表現や、一体何を意味しているのかが分かりにくいものも混ざっています(定義13「境界とは何かの端である」とか(笑))。それを意味不明のままにして額面通り受け取ったり、アナクロニズムに陥らないように気を付けながら、今の自分たちの持っている(要は学校で習った)言葉に対応させ、また具体的にその都度、図を描いて理解してもらいました。
最初の三つの定義でも、面白いなと思うことがあります。それは、定義3だけ見たら意味不明かもしれないところ、その前の定義1と2を見ると、順番に「点」と「線」の説明がなされていることです。つまり、注意深く読みさえすれば、「なるほど、こういうことを言っているのか」と分かります。
(ときに、「三辺形」という名前にびっくりしましたが、四辺形と言えば、おなじみの平行四辺形が思い浮かびます。また三辺形が三角形になり、正三角形になっていく、「~とは・・・というもの」という定義の書き方は、まるで小説の筋立てのように、興味深いものがありました。)
定義8と9で「直角」が定義されていますが、それによると、(意訳すると)「横の線と縦の線が交わって、その縦の線の両側にできた角が等しいとき、それが直角だ」とあります。
直角と言うと、90°という言い方でしか小学校では習わないと思いますが、左右の角が等しい、つまり「半分」という意味づけに、「なるほど」と思いました。(またそれによると、垂直と直角が、結局同じ意味であり、小中学校でやたら言葉の使い分けにうるさいのにはあまり意味がないことにも気づきます)。そして、直角の定義は、大事な「直角三角形」という定義に使われます。
また定義15には、有名な例の「円とは?」という定義があります。円という曲線を、「点の集合」で表されています。それが、今「A=Bだ」と言われて、新鮮です。(今ではx^2+y^2=1とか、複素数で理解するとか、色々な言い方がありますが、それでもなお、2000年前のこの定義には鮮度があると思います)
A=A
と説明するのは、トートロジー(自己撞着、堂々巡り)で、理解に深みが生じません。ですが、
A=B
としたところには、(つまりAとはBであると別の言葉で説明したところでは)、たちまち、「なるほど」という「楽しみ」に襲われます。
「A=Aではなくて、A=Bと説明するのが、いかにも哲学らしい」と私が言ったとき、A君(高校1年生)のメモを取るスピードが急に早くなったことに気づきました。A君にとって、どうやら原論の定義の箇条書きは、むしろ気に入ってくれたようでした。そのこと自体が面白いなと思いました。
一方、中学2年生のR君には、純粋に「新しいこと」を吸収してくれている様子を感じました。
今学期から、隔週から毎週クラスに変わり、以前よりもじっくり腰を据えることができるようになりました。そこで、また仕切り直して、1巻の命題から一つずつ証明していくことにいたします。
というのも、1巻は、命題47、48(1巻の最後)の「三平方の定理」が一番高い峰となり、それにつながるようにして、それまでの諸命題が配置されています。昨年度までは、そこまでの登頂ルートとして、必要なところだけ証明して最短で登ってきました。今度は、そのような「登頂コース」とはまた趣を変えて、1巻の「裾野」から、(とはいえ、あまりにくどい命題は避けるつもりですが)、できるだけ山の形全体を楽しみたいと思います。
ですので、前に一度証明したことも含まれてしまいますが、今もちゃんと証明できるのかどうかを確認することは、十分な腕試しになります(さらっとできるなら、それはそれで自信になる)。クラスの音色としては、復習することが楽しいと思ってもらえれば幸いです。
また、後で振り返った時に、「なんだかよくわからないけれど、山の学校というところで、自分はユークリッド『原論』を、第1巻はほぼ完全に読んだ(証明した)」と言えるようなことを、むしろより大きな目標にしたいと思います。
ぜひ週1のペースを保って、本の「続き」を読むようなつもりで、気長にかつ気楽に参加してほしいと思います。これからもよろしくお願いいたします。
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