山びこ通信(2013年度・冬学期号)に寄稿されたエッセイを転載いたします。
『これからの10年に向けて』 高木 彬
私は、山の学校でお世話になりはじめてから、この3月でまる5年になります。担当させていただいてきたのは、おもに小学生のクラスです。5年のあいだには、いろいろと思い出深いことがありました。これまで教室で一緒になった子供たちの名前や、表情や、言葉や、そのときの光の加減なんかも、ぜんぶ覚えています。でも、書き始めると、あれを書けばそれも、それを書けばこれも、というふうに取り留めもなく溢れてしまいそうなので、ごめんなさい。今は、胸にしまっておかせてください。もしかしたら、山の学校の20周年記念のエッセイには、落ち着いて書けるのかもしれません。
ですので、私からは、これからの未来のことを、ひとつだけ。
授業で取り上げる題材や方法そのものの面白さに頼って、それを次々と消費しながら進んでいくよりも、ひとつひとつの題材にじっくりと(それこそ年単位で!)向きあう。上手く言えないのですが、そんなクラスづくりを、これから先も、心がけていきたいです。題材の面白さに頼れば、やがて飽きて面白くなくなる日が来ます。テレビゲームは、クリアすれば次のソフトが欲しくなります。それもたまにはいいでしょう。しかし、じっくりと自分の頭でものを考えること自体に面白さを見出すことができれば、それは一生の力になります。大げさなことを言うようですが、教育の本来の意味のひとつは、そこにあるのではないでしょうか。これまでの短い経験から、実感していることです。
こうしたことを実践できる稀有な現場として山の学校があり、山の学校を支えてくださる多くの会員のみなさまがおられて、そこになにかのめぐりあわせで関わらせていただいているのは、私にとって、言葉の正確な意味で「有り難い」ことです。子供たちの10年後のために、明日からも、どうぞよろしくお願いします。