大人になっても学び続けるために

山びこ通信(2013年度・冬学期号)に寄稿されたエッセイを転載いたします。

 

『大人になっても学び続けるために』 百木 漠

私は3年ほど前から山の学校にお世話になり、これまで小学生の「かず」のクラス、高校英語のクラス、経済学入門の授業、将棋道場などを担当させていただきました。現在は将棋道場の道場主のみを毎月一回担当させていただいています。

それぞれのクラスや企画に思い出や思い入れはあるのですが、とくに山の学校ならでは、というユニークさを体験させていただいたのは「経済学入門」の授業です。毎週、40~60代の方を相手に経済についての授業をする、というよりは一緒に議論をし、共に学ぶ、という楽しさ・面白さを味わわせていただきました。経済学入門といっても、マクロ経済学やミクロ経済学のような理論を教科書的に学ぶことはほとんどしていません。毎週、私が気になった経済ニュースの新聞記事などを切り抜いてコピーしていき、それについて簡単な解説を加えながら、その感想を皆で議論しあう、といったことをしていました。また、一冊読む本を決めて、毎週一章ずつそれを輪読していく、という試みもやりました。ときには私の研究内容を簡単に報告して、それをきっかけに議論をしたこともありました。いずれの内容も意外な方向に議論が転がり、私が一方的に「教える」というよりも、むしろ受講者の方々から「教わる」機会が多かったように思います。

私事になりますが、私は大学周辺の仲間と一緒に「京都アカデメイア」という勉強サークルのようなものを主催しており、山の学校でも「経済学の夕べ」や「調査研究の夕べ」、「アカデメイアカフェ」などのイベントを、場所をお借りしてやらせていただきました。そのときにも感じたことですが、山の学校の良いところは、学生も大人も一緒になって学びあうことができるということです(もちろん他にもたくさん良いところはあるのですが、ここでひとつだけ挙げるとすれば)。その意味で、山の学校は京都アカデメイアにとっても良き目標のひとつであり同志である、と勝手に考えさせてもらっています。

生涯学習の大切さ、教養を学ぶことの大切さなどは昔から言われていることだと思いますが、では学校(小中高大)以外の場所で、独学以外でそういうことをできる場所がいまの日本にどれだけあるでしょうか。もちろん山の学校でもうまくいっていることもあればそうでないところもあると思いますが、それでも大人のクラスから中高生、小学生のクラスまで幅広い種類のクラスがあり、さらには幼稚園まで一緒にあるという、こんな「学校」はなかなか他にありません。大人がラテン語やイタリア語を学ぶ横で、小学生が工作や絵画や将棋をやっていたり、中高生が英語や数学を学んでいたりする。調査入門やユークリッド数学、なんでも勉強会などユニークなクラス・企画も多い。

そういった良い意味での「雑多さ」や「多様さ」が存在している山の学校という場所は、学問の面白さを多くの人たちと分かち合いたい、歳をとっても一生学び続けていきたい、と考えている私のような人間にとっては希望のひとつでもあります。山の学校のような「学び」の場所が他にもどんどん増えていけばいいのにな、と思ったりもしています。縁あって、このような素敵な「学校」の一端に関わらせていただいているのは非常にありがたいことです。微力ながら今後も山の学校を盛りたてるお手伝いをしていければと考えておりますので、どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。