福西です。前回の記事の続きです。
さて、「分かった! たぶんやけど、差を取ると、何かあるんや」と言い出したのは、Ta君。
対角線の本数の差
4角形-3角形 2-0=2
5角形-4角形 5-2=3
6角形-5角形 9-5=4
7角形-6角形 14-9=5
8角形-7角形 20-14=6
9角形-8角形 27-20=7
「10角形は、引かんでも分かる。だって、27+8のはずだから。+7の次は、+8のはず。だから、27の次は8増えて35!」とTa君。
そこで、念のため図を描いてもらったところ、
「ほら、な!」
と得意げに絵を見せてくれたTa君でした。
このあと、Ta君はひたすら1+2+3+4+5+・・・という計算を実行してくれていました。
そこで、「あ、これって、前もやったことがある計算や!」とTa君。
そうです、いいことを言ってくれました(^^)
一方、Ka君は、頂点を1つずつ増やすのではなく、偶数で攻めていました。つまり、2角形、4角形、6角形、8角形・・・と。
「おれはこの方が、なんか見える気がする・・・」とKa君。
対角線の数
2角形 0
4角形 2
6角形 9
8角形 20
10角形 35
12角形 54
最後の 54の理由を尋ねると、「19増えているから」とKa君。
「だって、
2角形から4角形には+2、
4角形から6角形には+7、
6角形から8角形はには+11、
8角形から10角形には+15。
つまり、「差の差」を見てみると、4ずつ増えている。
ということは、次に増えるのは、+19のはず。だから!」
と。
そのようにきっと何かあると思って「+4」を見つけてくれた、Ka君の謎に対する嗅覚の鋭さには恐れ入りました。
というわけで、Ka君はこのあと、電卓を使って、+4+4+4+・・・という計算をひたすら実行してくれていました。
さて、法則性は見つかったわけですが、このあとそれを正100角形にまで適用しなければなりません。となると、ちょうどこの時にした問題のように、実際の計算量が膨れ上がってきます。
特に、Ta君もKa君も、それぞれやり方は違いますが、「前の答を利用して、次の答を出す」という方法を取っているので、前の答で計算が1でもずれていると、そのあとの答もすべて狂ってきてしまいます。
ただ、法則性を見つけたことで、「試行錯誤がなくなった」という点が保証されています。そこが強みです。あとは「ねばり強さ」の問題です。どれだけ途中の間違いに気付いてやり直せるか、です。(ストーリー的には「前編」の次は「後編」という熱い展開でしょうか(^^))。
一般に、数学の問題を解くときは、
1)法則性を見つける(たとえば方程式を立てる)
2)実際の条件に当てはめて計算する(方程式の解を見つける)
というような段取を踏むことになります。
(そして、1)よりも2)の点で難しい問題も実際には存在します。(たとえば微分方程式に直る問題ではちょくちょくそういった壁にぶち当たることがあります)
上のような見取り図も、ちょっと念頭に置いておくと、どこかでまた見通しがつけやすくなるのではと思います。
さて、100角形の対角線は、いったい何本になったのでしょうか・・・?
「4850」というのが、二人の一致した答でした。
二人とも「これで間違いない」という確信を得るまで、かなり苦労をしていましたが、答を得たあとは、「やった!」という達成感に満たされていました。二人とも、それぞれ自分なりのストーリーを体験した満足したように見受けました。
Ka君の答案。
Ta君の答案。
ちなみにTa君は、次の日に学校で「何か自分が一番興味のあること」について発表することになっていたそうです。それで、「明日、これを発表しよう!」と思いつき、ウキウキしながら取り組んでいました。後日その様子を聞いたら、「うまくいった。みんなすごいなと言って驚いてくれた」と言っていました。どうやら自信の種になったようで、よかったです。
ところで、二人とも「ある数の並びの差が規則性を持つ」ことに注目して解いてくれましたが、これは「階差数列」(高校生の問題)を考えていることになります。
本当のことを言うと、いつでも「差」が規則性を持つとは限らないので、差を取れば何でもかんでも規則性が見えてくると思うのは間違いなのですが、「万能ではない」ことを知った上でそれを使うのであれば、十分応用の範囲は広いものと言えるでしょう。
あとで私からも別解を報告しました。
「対角線の問題で二人は対角線を直接相手にしたけれど、『対角線+辺』と、問題をわざと広げて考えても、また別の規則性が見えてきます。そうやっておいて、余計な辺を後から引けば、対角線の数が求められます。」と。
つまり、どんなふうに数えるかというと、たとえば4角形だったら、以下のようにします。
(1)1つの頂点から引ける線の数は(重複も許して)、4-1=3 (-1は、自分自身を除くの意)
(2)頂点の数は、4
なので、それらをかけ合わせる。
(1)×(2)=3×4=12。
これで、引いた線を2回ずつ数えたことになるから、実際の線はその半分。つまり、
12÷2=6。
これが、辺+対角線の数。
そして今求めたいのは、対角線の数。だから、そこから4を引けば、
6-4=2
で、対角線の数が求められます。
こう考えれば、正100角形も、(頂点が増えるごとに計算結果を逐次更新していくという手間が省けて)
100×99÷2-100
=4950-100
=4850
と、計算でき、同様に、1000角形でも、10000角形でも、計算の手間はほとんど同じです。
「それ、すごい! それやったら何でも一発で計算できてしまう!」と、えらく興奮して聞き入ってくれましたが、もちろんこれは別解という名の蛇足です(笑)。
ただ、このようにして考えると、対角線のみで問題をとらえた時に出てきた、規則性の中の「不規則な部分」(3+3+2+1・・・の最初の3)の説明がいらなくなっていることに気づきます。
そのように、問題を拡張して考えると、よりシンプルな問題に置きかわることもある、ということを伝えたかったので、それをホワイトボードで説明しました。
かずの取り組みはことばの取り組みに似ています。「それぞれなりに自分のストーリーを体験」というくだりにそれを感じます。「虚数の情緒」の新クラスも、ある意味でこの物語の延長線上にあるとみてよいのでしょうか。
山下先生、コメントをありがとうございます。
>かずの取り組みもことばの取り組みに似ています。
以前、たまたまインターネットで調べ物をしていた際に見つけたのですが、筑波大学附属駒場中高等学校の吉田輝義という先生の、『現代数学のめざすもの』という講演記録があります。
https://www.dpmms.cam.ac.uk/~ty245/Yoshida_2011_Tsukukoma.pdf
「数学は文学に似ています」の一文から始まっているのですが、それを想起しました。
ちなみに内容はというと、「数学が何の役に立つのか?」という、よくある問いに対する答を、大きく4つに分けて整理された上で、数学とはどういうものなのか、とても分かりやすい解説がなされています。そして、「結局どれが一番正解だというわけではなくて、どれもがそれぞれに数学の大事な一面を言い当てている」ということに論旨が置かれ、私も読んでハッとさせられた次第です。(それまでの自分の考えが偏っていたことに気付かされました)
今度、『虚数の情緒』を読むクラスの、最初の授業でも、その一部(AとD、E)を抜粋して紹介しようと思っています。