岸本です。
今日で、イスラーム教世界の歴史も一段落です。
イスラーム文明の観点から、これまでの歴史を概観していきました。
イスラームの歴史は都市と商人の歴史とも言われます。
生徒さんも気づいていたように、これまで農民の話はあまり出てきませんでした。
最近ではそちらへ注目する研究もあるようですが、都市とそのネットワークとしてのイスラーム文明が、一つの特徴とはいえるでしょう。
そのイスラーム文明の下では、コーランに基づく「固有の学問」と、周囲から取り入れた「外来の学問」がそれぞれ成長していきました。
前者では、コーランを解釈する神学や法学、文法学が、後者では哲学や医学、数学に天文学などが代表例です。
あまり結びつかないかもしれませんが、イスラーム教の世界の科学的な水準はかなり高いものでした。
近代になって頭角をあらわすヨーロッパに、むしろその知識を普及させたのがイスラーム教の世界なのです。
ただ、生徒さんは、特に固有の学問や哲学が、多数派であるスンナ派の下での発展ではないかと考えてくれました。
確かに、ムハンマドの血筋を重視するシーア派や個々の指導者のカリスマが大きな意味を持つスーフィズムと、上記の学問の発展は、あまりそぐわないように見えます。
シーア派にとっての学問、スーフィズム教団それぞれにとっての学問というように、考える必要がありそうですね。
イスラーム教の世界を、単一のものとしてみない見方は、これまでの歴史を通じて培われたものだと思います。
その視点を、現代に移すならば、日本のニュースをにぎわすイスラーム教(の過激派)が決してイスラーム教の唯一の代表ではないことがわかるはずです。
イスラーム教の世界にも、多様性はもちろん存在するのです。
イスラーム教にとって他者である私たちは、まずもってその世界の内実を知り、歴史的背景を踏まえた上で、より良い関係の構築を、目指していくべきではないでしょうか。
さて、イスラーム教の世界の通史を概観してきたわけですが、生徒さんはイスラーム教の世界において宗教という要素がいかに大きいものであるかを実感できたという感想を述べてくれました。
近代化された日本ではあまり感じられない経験だったのかもしれません。
この宗教という要素が、イスラーム教の世界を一方では一つにまとめていることに、生徒さんは気づいてくれたと思います。
では、このイスラーム教とはそもそも何なのか?
次回からはその疑問をもう少し掘り下げてみようと思います。
来週はお休みですが、井筒俊彦の『イスラーム文化』を、これまでの歴史的知識を活かして、批評的に読み、さらにイスラーム教の世界に近づければと考えています。