『日本文化論を読む』で、問題意識を深く鋭くしませんか?
福西です。クラス紹介です。
『日本文化論を読む』
日時:木曜21:30〜22:50
講師:中島啓勝
形式:オンライン
【講師のメッセージ】
 
この授業は名前の通り、日本文化にまつわる様々なテキストを課題図書として毎回少しずつ読み進めています。講師の私は背景知識を紹介したり論旨を解説したりはしますが、基本的には受講者の方とざっくばらんに語り合う、読書会的性格の強い内容となっています。
 
また、開講当初から「文化論」というテーマにはそこまでこだわらず、広く「日本」に関するテキストであれば興味関心のおもむくまま読んでみるという姿勢でここまで続けてきました。
 
現在、この授業では丸山眞男の『忠誠と反逆』(ちくま学芸文庫)を課題図書として使用しています。この本を選んだ背景には、進歩派知識人の代表格であり戦後民主主義のリーダーであったにもかかわらず、近年顧みられることが少なくなってきた丸山眞男の思想と著作に触れてみようという考えがありました。特に本書には表題作である「忠誠と反逆」や、「歴史意識の『古層』」など、後期丸山の代表的論考が複数掲載されていることもあり、少し手強いながらも学ぶところが多いだろうということで課題図書に採用しました。
 
とは言え、読み始めた当初、受講者の方は「前提知識が不足しているのもあるだろうが、文章や言葉遣いがやたらと難しくて頭にすっと入ってこない」「これを書こうと思った意図が上手く掴めない」と大苦戦の様子で、遂には「丸山さんって人はわざと難しく書いて賢さをひけらかしているようにしか思えない」と恨み言をこぼされる始末。苦笑しつつも、さすがに今回はテキスト選びに失敗したかなと焦りを覚えてしまいました。
 
しかし、何年もこの授業を重ねてきただけあって、めげずに粘り強く読み続けるうちに、受講者の方の丸山に対する印象が次第に変わっていきました。丸山の問題意識の普遍性やその鋭い批評眼に気づくと、あれほど心理的抵抗を感じていた丸山の文章との付き合いがそれほど苦ではなくなっていったようです。それどころか、当時の丸山の議論がご自身が日々の生活で感じている違和感とも深くつながっていると感じられるようになり、面白く読めるようになったようです。
 
中でも特に受講者の方の興味を引いたのは、福沢諭吉や佐久間象山など、幕末から明治維新にかけて活躍した知的エリートたちについての記述です。丸山はこうした人たちを自身のロールモデルと見なして紹介しているわけですが、重要なのは、彼らが新時代の立役者であると同時にそれ以前の武家社会に長年にわたって蓄積されてきた思想文化の申し子でもあったという点でした。
 
彼らが西洋近代にいち早くキャッチアップできたのは、あくまで伝統によって育まれた精神的土壌を引き受けた上で徹底的に考え抜き悩み抜いた結果なのであり、過去の遺産を捨てて新奇な文物に飛びついたからではない。このことを私たちは丸山のテキストを通じて教えられました。そして、丸山がそれを強調すればするほど、現代の私たちが軽佻浮薄としか言いようのない風潮にいかに翻弄されているのかを痛感します。
今回は課題図書を「難しい」「つまらない」と決めつけて早々に諦めるのではなく、「古典とされてきたからには読む価値があるに違いない」と信じて読み続けて本当に良かったと思います。丸山とのお付き合いはもう少し続く予定ですが、これからもこの授業では、本との出会いを自身の生活や価値観を見つめ直す機会として大切にしていきたいと考えています。
(中島啓勝)