福西です。
『リンゴ畑のマーティン・ピピン』(エリナー・ファージョン、石井桃子訳)を読んでいます。
第5話の受講生の要約です。
第5話 『誇り高きロザリンドと雄ジカ王』
要約/Y.M.
「ウェイランドの渡し」としてかつて知られた川の辺りに、ハーディングと名乗る男が住んでいる。ハーディングは鍛冶屋を営み、輝く赤い見た目から、赤い鍛冶屋と呼ばれている。また、あるときは赤い渡し守、赤い狩人と呼ばれている。
ハーディングが住んでいる川の辺りは、鍛冶屋のウェイランドの霊がいると言われていた。ウェイランドは、神としてあがめられていたそうだが、もう信じる者はいなくなった。
ある日、ハーディングは、丘で見つけた小ジカを追って森に入る。そこには、かつて、望みが必ず叶うと言われた池があった。若い雄ジカは池の守り手と思われた。ハーディングは、この雪のように白く、王の血すじに見える雄ジカを狩ることを、角が立派になるまで待つことにする。それから毎年、雄ジカを見つけ、六年がたつ。次の年に獲物にしようとする。
さて、ハーディングが雄ジカと最初に出会った頃のこと、川の向こう岸に城の廃墟があった。そこには、貧しいが、誇り高いロザリンドが住んでいる。ロザリンドは強く優美で、髪はゆたかな色に輝いている。彼女の祖先は王であったが、領地や宝が減るにつれて、心の栄誉を大切にしていったため、周りからあざけられるはめとなった。そして、ロザリンドも人々と距離をとっていた。
しかし、彼女が十六歳の時、城の近くで農奴に会う。その男は、彼女を妻にしようと申し出たが、ロザリンドは、(いやしい者が)我が血すじに話しかけるなと叫ぶ。男が去った後、ロザリンドは渡しを渡ってきた赤い狩人に気づく。彼女に見入っていたハーディングのことを、ロザリンドは自分をさげずむ者だと思い、憎む。無口な二人の関わりは、その後、絶えた。
ロザリンドが村に行くと、人々は農奴とのことを知っているため、笑い者にされる。彼女は相手が王の血でなければならないと言うが、そこにハーディングがやってくる。強気なロザリンドだったが、ハーディングの目の輝きで、目を伏せずにはいられなかった。そしてロザリンドは、村人たちとハーディングを憎み、逃げ出した。
ロザリンドは人々と関わるのをやめ、その後の五年をより貧しく生きる。彼女は誰の手も借りようとしなかった。ある日、飢えが骨身にこたえた。ロザリンドはやっとの思いで森に入る。目覚めたのは夜だった。頭を上げると、木の向こうには、角の完成した美しい雄ジカがいた。ロザリンドが雄ジカについていくと、願かけの池が現れる。そこでロザリンドは「私に生(きるための小銭)か死を与えて下さい」と叫び、祈った。直後、何者かが動く気配がした。彼女が住まいに戻ると、そこには銅銭の山が二つあった。
時は過ぎ、ハーディングは、雄ジカを追いはじめる。見失っても落胆はせず、運命のように雄ジカを愛した。彼が夢見る間、ロザリンドも不思議な金のほどこしを受け、陽気づいた。そして彼女の家の血すじは自分しか持っておらず、自分を通してしか生まれないと考える。そこで誰かがロザリンドの名にかけて馬上槍試合で戦ってくれる日のために、ドレスを作る金を貯めはじめた。
突然、丘で雄ジカを見かけたといううわさが広まる。うわさは丘をこえ、モードリン女王にまで伝わる。女王は、雄ジカの角を得た騎士の婦人には最高の美女の名誉を与えると宣言する。また、馬上槍試合の前に、近くで自分に合う住まいがあるか使者に探させる。見つけ出された城跡は、女王の家に仕上げられた。しかしそこはロザリンドの城だった。ロザリンドは追い払われることになってしまう。
ある日、ロザリンドは川で雄ジカのことを耳にする。そこにはハーディングもいた。二人とも雄ジカは誰の手にも渡ってほしくないという思いを持つ。
馬上槍試合の前日、鍛冶屋として剣の修理を頼まれていたハーディングは、モードリン女王に呼び止められる。女王は、ハーディングの持っていた宝石や、金細工に感嘆の声をあげ、銀の糸で編まれた絹のような服を買い取りたいと言う。ハーディングの求める価格が、金でも鉄でもないので、女王が「私のキスか?」と問うが、彼は「そんな安ものではない」と返す。女王は、これは二人だけの対決だと微笑んだので、周りの者はふるえた。
一方、ロザリンドは、今宵が願いの叶う夜だと思い出し、森に入る。彼女の前に友として現れた雄ジカは、角を完成させ、十六本になっていた。ロザリンドは、願かけの池に向かって、「自分の愛のためではなく、自分を捧げるための騎士を下さい」と祈った。直後、闇の中で、かすかな音がした。
それからロザリンドは、ハーディングの鍛冶場まで行く。ハーディングの求める代価はロザリンドのキスだった。ロザリンドは、その場を去り、彼は静かに笑った。
ロザリンドは鍛冶屋のウェイランドに剣を願う。その後、彼女は輝く剣を発見する。
それから、ちまたでは「錆びた騎士」がうわさになる。その騎士は錆びた武具で覆われ、王の血すじをひく者だと言う。騎士は名剣を持ち、誇り高きロザリンドの名にかけて戦う。剣さばきは一番悪いが、その剣とロザリンドについて人々は興味を持った。
秋になると、女王や他の騎士たちは雄ジカを追う狩りをした。また、ロザリンドはウェイランドに弓を願い、弓矢を得る。
あるとき、一人の騎士が雄ジカと共にいた錆びた騎士を見つける。錆びた騎士は、雄ジカの角はロザリンドのためのものだと叫ぶ。二人は逃れたが、この話は広まる。最後の狩りの日、モードリン女王は雄ジカを見つける。騎士たちは二人を必死に追った。逃げ場を失う二人だが、何者かが放った矢により、騎士たちはおびえ、去り、助かる。それは赤い狩人、ハーディングだった。
ハーディングは、「錆びた騎士はロザリンドの名を傷つけた。そしてロザリンドは自分のものだ」という。昔、ハーディングが若いロザリンドを池で見かけてから、彼女は自分の妻になる人だと思っていた。また、彼も王の血すじを持っていた。ロザリンドが願いの池に来たとき、ハーディングは近くにいて、願いを叶えていたのも彼だった。ハーディングはロザリンドのために雄ジカを射ようとする。しかし、武具を取った錆びた騎士─ロザリンド─が彼の行動を止める。ハーディングは彼女にひざまずかないように言い、彼女を愛した。
その後、ハーディングは赤く輝く騎士となり、試合で他の騎士たちを倒す。そしてロザリンドが雄ジカに乗り、銀の衣装をまとって登場する。ハーディングはロザリンドに王冠を冠らせる。角の冠を持つ雄ジカ王も誇らしげだった。
ハーディングが渡し場まで来ると、ロザリンドは船に乗るための代価を聞く。ハーディングは、動くものと答える。そして、誇り高きロザリンドは彼にキスをした。
読了、おめでとうございます!
以前のMさんの要約はこちらです。
山下です。読了おめでとうございます。素晴らしい要約に目が釘付けになりました。このクラスの受講生の歩みをふりかえるとき、優れた作品を最後まで読みとおしその都度内容を要約する作業は、もっとも手間と時間がかかりますが、作品の放つ力を豊かに味わい尽くすうえできわめて有効な方針だとあらためて確信する次第です。
山下先生、福西です。
お祝いの言葉をありがとうございます。Mさんにもお伝えします。
もともと山下先生のアイデアで、ことばクラスに「要約」を導入いたしました。
そのシンプルな取り組みの重要性を、ますますかみしめる今日です。