福西です。(その1)の続きです。
マーガレットは、「わたしはふさわしくない」(I am not good enough)、「わたしの心には悪が巣くっているのです」(There is evil in me.)と言い、ホブから離れようとします。
さらに、「自分自身と闘ったけれど、だめだったのです」(I fought myself in vain.)、とも言います。
いったい何のことを言っているのでしょうか。
ただ、分からぬながらも、ホブはあきらめません。「金色のバラに黒い蛇を見た時、私は神に感謝したのだ」と言い、お互いに不完全だからこそ、愛し合って、喜びも、勇気も、美しさも、知恵も、一緒に作り上げていこう、と。
何のとりえもないと思われたホブの特性は、愛でした。相手の不完全さを許容できることでした。
愛は(キリスト教的な)神の特性であり、永遠であり、無限です。
この作品では、喜びや、勇気や、美しさや、知恵は、有限なものとして登場します。
ホブの弟たちは、有限なものを得て、それを取られて廃人になってしまいました。
いわば、有限ー有限=0という図式です。
けれどもホブの愛は、マーガレットから取られても、一向に減りません。
いわば、∞ー∞=∞という図式です。
だからこそホブは、金色のバラが咲いた後も、正気を保っていられたのでした。ホブの愛とマーガレットの愛は、交換ではなく、混ざり合ったのです。
ホブはあらためて、マーガレットに求婚します。
しかし、ここで、さらにどんでん返しが生じます。
マーガレットの顔は死人のように青ざめていました。
マーガレットはついに、ホブの勧めに押されて、婚礼衣装をかぶります。
すると、何が起こったでしょうか。
彼女はたちまち息絶えたのでした。(as soon as she had put it on she fell dead at his feet.)
なんと、婚礼の衣装が、死に装束となってしまったのです。
ここで、「自分自身と闘ったけれど、だめだった」というマーガレットのセリフが思い出されます。
oh, my heart, had I known, when you spoke last night of your bride, that I was she! I will never be she! I was not good enough. I fought myself in vain.
「昨夜、私が彼女(=結婚相手)だと知っていたなら」と、マーガレットは嘆いていました。
そして、「私は彼女(=結婚相手)には決してなれないだろう」と。
その「決してなれない」というのが、成就したのです。
その種明かしは、来週に読む箇所で。