福西です。
ウェルギリウス『アエネーイス』(岡道男・高橋宏幸訳、西洋古典叢書)を読んでいます。
10巻の104-197を読みました。
前回、神々の会議において、ユーノーとウェヌスの言葉の応酬がありました。それぞれ50行ほどの長さであるのに対し、続くユピテルの言葉は、10行と手短かです。
その中で、特に気になる表現が2つありました。
10.112
rex Iuppiter omnibus idem.
王ユピテルは(rex Iuppiter)すべての者にとって(omnibus)同じ(idem)(である)。
なぜ気になるかというと、これと酷似した表現が、ウェルギリウスの別の作品(『農耕詩』)にもあるからです。
Geo.3.244
amor omnibus idem.
愛は(amor)すべてのものにとって(omnibus)同じ(idem)(である)。
『アエネーイス』では、「ユピテルは公平で、トロイア人もイタリア人も分け隔てしない」という文脈であらわれます。ここでユピテルは、運命(ユピテルの言ったこと、すなわちfatum)と言いかえてもいいでしょう。運命は公平だ、と。
一方、『農耕詩』では、「愛(欲)を遠ざけたり、逆らうことは、どんな動物にもできない」という箇所です。これはまた別の作品(『牧歌』10.69)での「愛(欲)はすべてを打ち負かす(Omnia vincit Amor)」を連想させます。
これを踏まえると、上記のくだりは、人間であれ神々(ユーノーやウェヌス)であれ、「運命に逆らうことなどできない」(愛に逆らえないのと同様に)とも読めます。
(その2)へ続きます。