福西です。
『リンゴ畑のマーティン・ピピン』(エリナー・ファージョン、石井桃子訳)を読んでいます。
読んだ個所は、下巻p118-128です。
いよいよ、第5話「誇り高きロザリンドと雄ジカ王」(Proud Rosalind and the Hart-Royal)に入りました。
ここまで読んだ4話はどれも、最後に読んだ話が「一番印象的」に思えました。今回の話も、そうなるのでしょうか。
第5話は、ハーディングという男の話から始まります。
最初にヒロインが登場しないのは、いつものパターンです。
ハーディングには異名が三つあります。「赤い鍛冶屋」「赤い船頭」そして「赤い狩人」。
狩人としてのハーディングは、ある時、白鹿を池のほとりで発見します。その池は白鹿の水飲み場で、「願いの池」と呼ばれる秘密の場所でした。ハーディングは期せずして二つの発見を同時にします。
白鹿はまだ一才でしたが、その時からもうすでに「鹿の王者」の風格を有していました。
ハーディングは白鹿をすぐに射ることはせず、毎年のように観察します。そして角が生えそろう六年後に、それを射止めることを、大きな楽しみとします。
一方、ハーディングの鍛冶屋の向かいに、城の廃墟がありました。人が住めないその場所に、ロザリンドという少女が、友もなく住んでいました。
かの女は、若い雄ジカ(hind)のように強く、りりしく、どんなシカにも負けずに丘を走ることができ、どんなリスにも負けずに木にのぼることができた。
読者はここで「あれ?」と思うことでしょう。ロザリンドが「シカ」にたとえられていることに。
注:石井桃子訳では、hindは「若い(=角のない)雄ジカ」と訳されています。ただし、この単語は「角のない鹿」を意味するので、雌鹿と訳してもよさそうです。
ロザリンドの暮らしは大変貧しいものでした。ですが彼女は王家の血筋で、誇り高く、それに美しい容姿を有していました。
そのため、村の女たちは彼女に嫉妬し、また男たちは彼女のプライドの高さに憤りました。
ある時、村人の男がロザリンドの美しさに魅かれ、できごころからキスしようとしたことがありました。ロザリンドは男に「雑種、お前の犬小屋に帰れ」(”Mongrel, go back to your kennel!”)と言って、こっぴどく拒絶します。
そのことを根に持った男は、ロザリンドの悪口を言いふらします。村人はますます彼女が落ちぶれた貴族であることを馬鹿にしました。
このことにはしかし、ロザリンドは耐えることができました。問題は、そのキスされそうになった現場を、ハーディングに目撃されたことです。それを誇り高いロザリンドは何よりの「恥」だと覚えたのでした。彼女はハーディングのことを毛嫌いします。
こうして物語は、ロザリンドとハーディングの仲が最悪の状態から始まります。
さて、これからどうなるのでしょうか。