福西です。
(その1)の続きです。
第9章の後半です。ここは名場面です。
レイチェル・リンドの家からの帰り道。グリーン・ゲイブルズが見えてきます。
アンは「家路につく」という出来事を実感して、マリラにこう言います。
「家へ帰るってうれしいものね。自分の家ときまったところへ帰るのはね」(村岡訳)
(“It’s lovely to be going home and know it’s home,”)
その直前の部分は、以下の通りです。
アンは急にすりよってマリラの固い掌に、そっと手をすべりこませた。(村岡訳)
Anne suddenly came close to Marilla and slipped her hand into the older woman’s hard palm.
直訳では、アンは、年寄り女の固い手のひら(the older woman’s hard palm)に、自分の手を(her hand)すべりこませた、とあります。
11才の少女の手のやわらかさと、60才の農夫の手のごつごつとの対比。二人の手の光陰が混然となる瞬間です。
夕日のまぶしさと、農場の夕闇。
家の台所の灯と、葉の匂いを運ぶそよ風。
まさに「家路」です。
このとき、マリラの胸にこみ上げてきたものは、母性でした。
それは、いつかマリラ自身が少女だったころの、彼女が母と手をつないで帰った日の、遠い記憶だったのかもしれません。