『リンゴ畑のマーティン・ピピン』を読む(西洋の児童文学を読むC、2022/6/30)

福西です。

『リンゴ畑のマーティン・ピピン』(エリナー・ファージョン、石井桃子訳)、第4話「オープン・ウィンキンズ」を読んでいます。

下巻p43-50を読みました。

ホブが気が付くと、見知らぬ森の中で横たわっていました。そして、目を開けた時の光景に、驚きます。

かれは、世にもうるわしい女の目を、じっと見あげていたのだ。かの女はホブの上にかがみこんでいた。(…)ホブが動かないので、やがて、かの女が動いた。くずおれるように、女はひざをつき、ひくくかがみこんだので、ふたりの胸は触れんばかりになり、白い手が、そっとホブの額にさわった。煙った目は、涙でいっぱいになったが、涙はこぼれおちなかった。そして、ホブの耳に、夢のなかの音楽とも聞こえた、ふるえる声で、かの女はいった。

「ああ、見知らぬひと、もしあなたが死ぬのでなかったら、話して! 動いて!」

ホブは相手に心配されていることに気付き、身を起こします。そしてここは天国で、目の前の彼女は天使ではないかと思います。彼女は安堵し、泣き出し、抱きしめます。

そこで思わず、ホブが唇を寄せようとすると、彼女はさっと離れます。

「愛するひと、わたしを恐れないでくれ!」(…)「もし、あなたが、わたしのように思っていないのだったら、すぐそういってください。わたしはここを去り、これ以上、あなたやこの森をさわがせることはしますまい。」

彼女はしばらく迷っている様子でしたが、やがて戻っきます。

そしてこう言うのでした。

「わたしも、あなたと同じです。だから、この森にいつまでもいてください。そうすれば、あなたが心から求めているものをさしあげます。」

読者はここで、怪しいと思うはずです。なぜ見も知らぬ人と、出会った瞬間、恋に落ちるのか。彼女の方も、「心から求めているものをさしあげます」とは、いきなりすぎはしないか、と。

ホブは、彼女の名を尋ねます。

彼女は、マーガレットといいました。