福西です。
ウェルギリウス『アエネーイス』(岡道男・高橋宏幸訳、西洋古典叢書)を読んでいます。
いよいよ9巻に入りました。
1行目から122行目までを読みました。
アエネーアスが不在(アエネーアスは同盟を結びにエウアンドルスのもとを訪れている)であることを知ったトゥルヌスは、今が好機と、トロイア人の留守隊を攻撃します。
しかし留守隊は、アエネーアスのかねてよりの命令で、砦にこもって防御に徹します。
トゥルヌスは何とかしてこれを誘い出し、撃滅したいのですが、トロイア人は立てこもる一方。いっさいの挑発に乗りません。そこでトゥルヌスは、停泊中のトロイアの艦隊に目をつけます。これに火をつけようとすれば、そうさせまいとして、砦から兵が出てくるはず。そうやって、引きずり出すことができるだろう、と。
トゥルヌスの行動はとても理屈に合っています。彼が目的を設定し、それをなにがなんでも達成しようとすることは、人間らしい「苦労」だと言えます。
ところが、これに対して、怒った女神がいました。
大地の女神です。トロイア人の船は、イーダ山の杉でできています。大地の女神の生んだ神聖な杉が、トゥルヌスごときに燃やされるようなことはあってはならない、と。
大地の女神はそのことをユピテルに訴えます。
このパターンはこれまで、ウェヌスやユーノーのそれとして、何度も見てきました。
ユピテルは「母神よ、ご安心あれ」と、船を海の乙女たちに変身させます。乙女たちはイルカのように泳ぎ、トゥルヌスの松明から逃げ出したのでした。
船だった乙女たちは、海神の眷属となります。ということは、もうトロイア人のもとに帰ってこないわけで、「艦隊がなくなった」ことには変わりないのですが……。おそらく、「放火から助かった」という印象が大事なのでしょう。
こうした神の介入は、トゥルヌスの目には「不正だ」と映ったことでしょう。
(その2)に続きます。