『リンゴ畑のマーティン・ピピン』を読む(西洋の児童文学を読むC、2022/5/26)

福西です。

『リンゴ畑のマーティン・ピピン』(エリナー・ファージョン、石井桃子訳)を読んでいます。

いよいよ下巻に入り、p9~p14を読みました。

第4話は『オープン・ウィンキンズ』です。不思議なタイトルです。

五人兄弟の領主が登場します。一覧すると、以下の通りです。

長男:ホブ(Hobb)       22才、8/1生、特徴は「特になし」(愛情)

次男:アンブローズ(Ambrose)  19才、7/1生、「賢さ」wisdom

三男:ヘリオット(Heriot)     16才、6/1生、「美」beauty

四男:ヒュー(Hugh)      13才、5/1生、「勇敢さ」bravery

五男:ライオネル(Lionel)     10才、4/1生、「幸福」happiness

そして、長男ホブがこの物語の主人公です。この五人兄弟はとても仲が良く、お互いを大事に思っています。

 

物語は、五人兄弟の両親のエピソードから引き起こされます。

母は庭師の娘で、文字通り箱入り娘として人知れぬ園にかくまわれ、大事に育てられます。しかし庭師の知らないうちに、若い領主が娘を見初め、付き合うようになります。二人の恋が本物だと知った庭師は、反対することをあきらめます。でも無条件では悔しいので、こう言います。

「最初の子にホブという名前をつけてくれるなら、許そう」と。

この甘々な条件に、二人は喜びます。ホブは庭師の名前でした。二人が、その名を呼ぶたびに、身分の違う恋を選んだことを忘れないようにと。

これが五人兄弟の長男の名前の由来です。

 

以下の個所が印象的でした。

「たが一度、ひとりの女のことばをうけいれたことがある。その女の助けがなかったら、わしは、わしの育てたうちでいちばんめずらしく、いちばんだいじな花をつくりだすことはできなかった。」(…)

「その女のひとは、おとうさんのおかあさんですか?」とむすめはいった。

けれど、庭師は答えなかった。

「いちばんだいじな花」というのは、おそらく娘のことであり、「ひとりの女」とは、庭師の妻だろうと思われます。娘を恋から遠ざけようとした庭師もまた、かつて恋をし、妻を得たのでした。庭師は、自分の経験に思い当たって、娘の質問に答えられなかったのでしょう。

 

このエピソードは、作者エリナー・ファージョンの家と重なります。ファージョンの父はイギリスの作家で、アメリカの女優と結婚しました。その時の「冒険」が、ファージョンの自伝に書かれています。また、ファージョンは四人兄弟(ハリー、ネリー、ジョー、バーティ。ネリーがエリナー)で、とても仲が良かったことも書かれています。

『わたしの子供時代』(エリナー・ファージョン、中野節子ら訳、西村書店)