福西です。
ウェルギリウス『アエネーイス』(岡道男・高橋宏幸訳、西洋古典叢書)を読んでいます。
8巻の349-453行目を読みました。
monumentum(monimentum)という重要な単語が登場します。(複数形はmonumenta、monimenta)
英語ではモニュメント、メモリアル、記念碑、思い出させるもの、形見のことです。
『アエネーイス』には10か所登場しますが、それらを一つずつ確認しました。(記事末尾の補足)
重要なmonumentaは、12巻ラスト、トゥルヌスの命乞いのくだりでしょう。アエネーアスが逡巡した際、かつてトゥルヌスがパッラスから奪って身に着けたバルテウス(剣帯)が光ります。それはパッラスの死(トゥルヌスが殺したこと)をアエネーアスに「思い出させるもの」(monumenta)でした。
このmonumentaによって、アエネーアスは容赦なき苦しみ(悲憤)(saevus dolor)を覚え、「パッラスが、パッラスがお前を殺すのだ」と叫ぶなり、トゥルヌスにとどめを刺してしまいます。
さて、アエネーアスがエウアンドルスの歓待を受ける一方、物語の場面は地上からいったん神々の世界に移ります。
8.370
だが、ウェヌスは母の心に空しからざる恐れを抱く。
ウェヌスは現状に不安を覚え、ウルカーヌスに、新しい盾をアエネーアスのために作ることを依頼します。
このウェヌスの「母の不安」というモチーフは、第1巻からの繰り返しであることを確認しました。
1.228-9
いつもより悲しげに、涙の浮かんだ目を輝かせながらウェヌスが(ユピテルに)語りかけた。
5.779
だが、そのあいだにウェヌスは、心労に苛まれて、ネプトゥーヌスに語りかけ、
今回は、ウルカーヌスに、というわけです。
【補足】アエネーイスにおけるmonimentum
1)3.102
tum genitor veterum volvens monimenta virorum2)3.486
accipe et haec, manuum tibi quae monimenta mearum3)4.497
cuncta viri monimenta iuvat monstratque sacerdos.4)5.537
ferre sui dederat monimentum et pignus amoris.5)5.571-2
Sidonio est invectus equo, quem candida Dido
esse sui dederat monimentum et pignus amoris.6)6.26
Minotaurus inest, Veneris monimenta nefandae7)6.512
his mersere malis; illa haec monimenta reliquit.8)8.312
exquiritque auditque virum monimenta priorum.9)8.356
reliquias veterumque vides monimenta virorum.10)12.945
ille, oculis postquam saevi monimenta doloris*saevi doloris monimenta = memorial of cruel grief
【補足】
saevus 非情な、容赦ない、残酷な
→ ユーノーまたはアキレウスの枕詞1.23-5
Id metuēns, veterisque memor Sāturnia bellī,
prīma quod ad Trōiam prō cārīs gesserat Argīs—
necdum etiam causae īrārum saevīque dolōrēs1.458
Atridas, Priamumque, et saevum ambobus Achillem.