福西です。
『ぬすまれた夢』(ジョーン・エイキン、井辻朱美訳、くもん出版)を読んでいます。
今回は、「8 おふろの中のクモ」という作品です。
父親がかまってくれないというさびしさがもとで、いじわるな性格になった王女エンマが、触らずに物を動かすという力に目覚めます。
エンマは、その力を磨くことに興味を覚えます。小さなものから大きなものへ、無生物から生物へ、と。
しかし、その力を、エンマはただ自分のさびしさを紛らわすための意地悪や、他人に対する優越感を満たすという快楽のために使います。
これは、以前に読んだ『さけぶ髪の毛』のクリスティ王女とは逆のパターンです。
召使いのハッティーは、エンマのことを気味悪がります。
ところで、エンマの念力には副作用がありました。術をかけようとしたときに集中が途切れると、動かそうと思っていたものが百個に増えてしまうのです。その失敗によって、エンマの周囲の人はたびたび不幸な目にあいました。
あるとき、エンマのお風呂場にクモが出るようになりました。
エンマはまだ生き物を動かすことができません。そこでハッティーに命じてクモを捨てさせます。
しかし、捨てても捨てても、クモはまたお風呂場に現れ、しかもだんだん大きくなります。
エンマも術を磨き、クモを動かすことに挑戦します。しかしタイミング悪く、ハッティーが手を切ってしまいます。その悲鳴で術の集中が途切れ、百匹のクモでお風呂場がいっぱいになってしまいます。
「おまえのせいよ」エンマは手きびしく言いました。「だから、おまえがしまつしなさい。おやり。命令よ」
クモを動かすのに失敗したので、エンマは怒りくるっていました。(…)
「だめよ! おまえの手でおふろから出すのよ。あたしのタオルでこのクモにさわってもらっちゃこまるわ。おやり。手でつかんで、窓から落っことすのよ」
ハッティーは仕方なく傷付いた素手で実行ます。そのうちにクモのことが怖くなくなり、クモが足を痛めないように配慮して、窓から逃がします。
すると、どうでしょう。窓の下に、百人のハンサムがいるではありませんか。彼らはダイヤモンドの詰まった袋を担いでいます。そのうちの一人は、王子でした。
王子は、エンマ王女に求婚に来る最中、ヘビに化けた魔女を踏んでしまい、その仕返しで、クモに姿を変えられたのでした。その呪いが解ける条件が、まさに勇敢な人間が素手ですくいあげ、やさしい心ですこし血をわけてくれることだったのです。
王子はエンマではなくハッティーに求婚します。そしてハッティーをもらいうける代わりに、ダイヤモンドを置いていきます。
ハッティーは幸せに暮らし、エンマはやがて念力に飽きて、退屈な女王になったとのことでした。