『トムは真夜中の庭で』を読む(西洋の児童文学を読むB、2022/1/7)

福西です。

『トムは真夜中の庭で』(フィリパ・ピアス、高杉一郎訳、岩波書店)を読んでいます。

19「つぎの土曜日」を読みました。

ここは、14章の「辞典をしらべる」と同じような「合間」の章です。

この物語は、トムがアパートにいる時間(昼)とハティの庭園にいる時間(夜)、物語の進む章と、立ち止まる章とが、交互に組み合わさっています。その構造(組み立て)が緻密で、建築物のように感じます。

13章 トムとハティがどちらが幽霊かでけんかをし、ハティが泣く(一つ目の山場)

→14章 ハティの正体を知ろうとして、トムは辞典を調べる(合間)

18章 ハティが木から落ち、意識を失う(二つ目の山場)

→19章 「時」のことが気になる(合間)

20章 大時計の鍵を開け、黙示録の句をつきとめる(三つ目の山場、物語の核心)

→21章 「時」のことを調べる(合間)

22章・23章 スケートの旅(水平構造。川が凍る=時が止まる)。川を離れて、イーリーの大聖堂に登る(垂直構造。時を永遠と取りかえる試み)(四つ目の山場)

トムのお母さんから手紙が届き、トムは次の土曜日(四日後)には帰らないといけなくなります。

ピーターの手紙には「気をつけろ」とありますが、お母さんが来ることをトムが止められるはずもありません。

そこで、トムの唯一の希望は、ハティと約束した、大時計の文字盤の絵でした。その絵の謎を解けば、ハティとずっといられるかもしれない。そう思って、早く夜になってほしいと願います。その意味では、時の移ろいはトムの味方でした。けれども、終わりが近づくという意味では、それはトムの敵なのでした。

トムは、グウェンおばさんと外出し、昼の時間をつぶします。そして町の汚い川を見ます。それは以前、ハティに「壁のむこうには何が見えるの?」と言われて、庭園の外に眺めた、あの川でした。

「家だの、工場だのがつぎつぎに建てられたからでしょ」

時の移ろいは止められないこと。思い出はどんどん現在と乖離していくこと。どこかノスタルジックで、作者の隠れたメッセージである気がします。