西洋古典を読む(2022/1/5)(その2)

福西です。

(その1)の続きです。

 

さて、河神ティベリーヌスは、以下のような趣旨のことを、アエネーアスに告げます。

「これが夢でない証拠に、この近くに、大きな白い雌豚(sus)が三十頭の白い子豚と寝そべっているのを見るであろう。そこが将来アルバの都となるのだが、さあティベル川を遡行し、エウアンドルス王と同盟を結べ。そして、ユーノーに作法どおりの祈願を捧げよ」と。

エウアンドルスの勢力は、ちょうどローマのあたりです。それとの同盟が、「さしせまったこと」の打開につながるというわけです。

ところで、ティベリーヌスの言う豚の下りは、3巻のヘレーヌスの忠告と同じです。以下の通り、8.43-46は、3.390-3とほぼ同じ詩行です。

3.390-3(ヘレーヌス)

litoreis ingens inventa sub ilicibus sus
triginta capitum fetus enixa iacebit,
alba solo recubans, albi circum ubera nati,
is locus urbis erit, requies ea certa laborum.

8.43-6(ティベリーヌス)

litoreis ingens inventa sub ilicibus sus
triginta capitum fetus enixa iacebit,
alba solo recubans, albi circum ubera nati. 
[hic locus urbis erit, requies ea certa laborum,]

巨大な雌豚が川岸の樫の木のもとに見つかる。

三十頭の仔を産み落として横たわっていよう。

地面に横になった母豚も白く、乳房に群がる仔豚も白い。

[ここが都の場所となる。そこで必ずや苦難に休息がある。]

[  ]は、「3巻と同一だから(後世の挿入が疑われるので)削除する写本もある」という行です。受講生のA君は、「なぜ4行ともではなく、1行だけを削除するのか」ということに疑問を抱いたようでした。

その手掛かりとなるかどうかわからないのですが、この箇所の近くに、もう一つ内容として繰り返している部分があります。それは、「ユーノーに祈れ」という忠告です。

3.438(ヘレーヌス)

Iunoni cane vota libens

すすんでユーノーに請願を唱えよ

 

8.60(ティベリーヌス)

Iunoni fer rite preces

ユーノーに作法どおりの祈願を捧げよ

この繰り返しは、アエネーアスにとって、リマインドの意味があるのかどうか、とても興味があります。(もし意味があるとすれば、繰り返しは作者の意図です。そうすると、もしかしたら、46行目の削除も必要ないことになります)