福西です。
『リンゴ畑のマーティン・ピピン』(エリナー・ファージョン、石井桃子訳)、第2話「若ジェラード」を読んでいます。
若ジェラードが17才になった時。再び、シアが彼の目の前に現れます。シアは領主の娘。一方、若ジェラードは領主の羊飼い(農奴)。二人は身分の差を意識しながら言葉を交わします。
この地方では、四月になると雪解け水で湖が現れます。シアは湖を泳いで渡るために、屋敷を抜け出したのだと言います。もちろん危険なことで、その時は実行しないのですが、シアはいつか必ず湖の向こうに行くのだと言います。そして、若ジェラードにたずねます。
「おまえのサクラは、もう咲きましたか?」
「いや、まだです、嬢さま。」
シアは、とても恥ずかしがり屋で、会話の糸口を見つけることができません。若ジェラードの方は、身分の高いシアに向かって、自分から話しかけることはできません。それなので、沈黙が多くなります。
それで、シアはようやく「喉が渇いた」といい、ミルクを所望します。若ジェラードはそれを五年前の夜と同じように持ってきます。シアはそれを喜んで飲み干します。
「サクラはもう咲きましたか?」「ミルクをいただける?」──この二人のおままごとのようなやりとりは、この後、二人が会うたびに繰り返されます。
この時のシアの様子が、とても印象的です。
このはじらいは、いつも突然やってきて、うちよせる波のようにかの女の息をとめそうにするのだった。
波打ち際で波を顔にかぶった経験のある人は、この比喩に心を動かされることでしょう。
(その2)に続きます。