『トムは真夜中の庭で』(フィリパ・ピアス、高杉一郎訳、岩波書店)を読んでいます。
13章「今はこの世にないバーソロミューさん」を読みました。
12章と合わせて、ここが一つの山場です。
12章では、トムはハティが「見えない涙」を流していることを感じ取ります。そして13章では、トム自身がハティに「本物の涙」を流させ、悲しませます。
どこまでもじぶんをまもろうとして、ハティはなおもトムをやっつけるのをやめなかった。
なにが二人のけんかの原因になったのか。それは、「相手の方が幽霊だ」という憶測でした。
トムは、自分が幽霊ではないことを知っています。だから、体がすり抜ける庭園も、そこに住むハティも、幽霊だと思い込みます。
一方ハティは、自分が幽霊ではないことを知っています。だから、体が物にすり抜けるトムのことを幽霊だと思い込みます。
結局、「自分が幽霊ではない」ということを証明するためには、相手が幽霊であることをお互いに証明しなくてはならなくなります。
悲しいのは、二人とも、相手が幽霊だと証明することが「目的」ではなかったことです。
自分を守るため、「自分が幽霊でない」と証明するために、仕方なく取った手段です。
特にハティは、両親を亡くし、愛情のない親戚のもとで暮らしています。自分の存在感が希薄だと自覚しています。その彼女が、味方であるトムから、「生きている様子が幽霊みたいだ」と思われることに、とても耐えられなかったのでしょう。
ハティは泣きだしそうに見えたが、それは痛いからではなかったろう。(…)ののしりあいをやめてみると、けっきょくなにがほんとうなのか、トムにはわからなかった。わかっているのは、ハティがせつなそうに泣いているということだけだった。
トムはハティの涙のリアルさを、自分の考えの確かさよりも優先し、ハティにあやまります。ハティも泣きやみ、トムのことを幽霊だと言わなくなります。二人はまた遊びの中に戻ります。
ところで、この章の題名は「今はこの世にないバーソロミューさん」です。それが物語の伏線の一つです。