福西です。ことば4年Bのクラスで、Iちゃんが書いてくれた(待望の!)作品を紹介します。
『チョコブラウニーですなおにえがお』 作/O.I
あるところに、ルミという女の子がいました。ルミには、妹がいて、レミと言う名前です。
ある日、パパが、会社の帰りに、デパートに行きました。それで、ルミとレミに、ハンカチを買いました。そして、家に帰ったら、二人がおでむかえしてくれていました。
パパが小さな紙ぶくろを二人の前にとりだした。レミがふくろをバリッとあけた。
「わあっ! かわいいっ!」
レミもルミもかんせいをあげた。リボンのもようのハンカチだった。ピンクのリボンとブルーのリボンのものとが、一まいずつあった。
「どっちがいい?」
パパが、ルミの顔を見て言った。
(ピンクの方がいい。)
とルミは思った。だけど、レミは、先に、ピンクがいいと言った。ママが、
「ルミは、ブルーの方が、お姉さんぽくていいわよね。」
と言いました。ルミは、ブルーはいやだけど
「うん。ブルーがいい。」
とうそをつきました。
次の日、今日は、土曜日です。バレンタインデーなので、ルミはせかせかと、チョコレート屋さんのもりあんという店に行きました。そこの店で買った物は、箱に入ったつめあわせを一こ買いました。スーパーで買った物は生クリームチョコレートを、ダンボールごと買いました。家に帰ってからさっそく作り始めました。レミは生クリームチョコレートをかきまぜてこぼしてしまいました。
(もりあん…明治時代からやっている古い店)
そこで、ルミはどこにいるかと言うと自分の部屋で、読書をしていました。それで読書をしていると、デザートようせいがルミの部屋に来て言いました。
「妹のレミちゃんが生クリームをこぼしたのに手つだわなくていいの?」
とルミに聞きました。
すると、ルミは心の中で、
(レミにピンクのハンカチもらわれたからいやだなぁー。)
でもルミは、わたしはやっぱりお姉ちゃんなんだから、レミのことちゃんとやってあげないとと思いました。それで、レミの所に行ってあげて、生クリームチョコレートをいっしょにふきとってあげました。
でもやっぱりルミは、ハンカチのピンク色がとられたのがいやみたいでした。ランドセルもピンクなのに、なんでママは、わからないのかなとルミは、思いました。それにレミの物は、ほとんどブルーなのにと思ってルミは、ムカッとしました。ずっとデザートようせいが屋上からルミのことを見ていました。
すると、ルミは、『なかなおり』の本を読み始めました。そして、部屋を飛び出しました。それで、リビングに行ってレミといっしょに、大ーーーーーきな、犬の形をしたチョコレートをパパに作ってあげました。そして、パパをおどろかせようと思って電気をけして、かぎをかけて、屋根うらにかくれました。
お父さんが帰ってきました。お父さんは、電気がけしてあることにびっくりしました。ルミとレミとママは屋根うらから、リビングにきて、クラッカーをならして、チョコレートをあげ、パーティーをして、それからルミはすなおに自分の思いを言うことが出きることになりました。
(二○一二年十月二十六日)
[コメント]
『チョコブラウニーですなおにえがお』という題名は、作品の主題をしっかりと表しており、読者の想像を思わず駆り立ててくれます。前半では、何気ない愛情表現の一つとしてかけられたお母さんの一言によって、主人公ルミの内心に葛藤が生じます。そして後半では、それが本来の「素直さ」に戻るまでの、もう一つの出来事が描かれています。
冒頭で、仕事から帰ってきたお父さんが二人の娘に渡した、一つのふくろ。それを「バリッとあけ」ると、「わあっ! かわいいっ!」という「かんせい」があがり、まるでふくろの中からその声が飛び出してきたかのように描かれています。日常の光景を細やかに写し取っており、とてもよく書けていると思いました。
「どっちがいい?」と人にたずねられることは、日常茶飯事だと思います。そこで相手や第三者の意見に自分を沿わせようとして、思わず裏腹のことを言ってしまう心境。これもまたよく経験することでしょう。作者は、ルミが反対のことを言ってしまった理由に、自分で決めるよりも先に、お母さんに「ブルーの方が、お姉さんぽくていいわよね」と言われたことを挙げています。そこで、「素直な姉」を演じようとして、素直でない作り笑いの返事をしてしまいます。その時の複雑な心境が、心中表現のかっこを使って、シャープに描かれています。
またそのように、四年生である作者が、同年齢の出来事を(おそらく登場人物のルミも作者と同じかそれに近い学年だと思います)客観的にとらえられるという事実にも驚かされました。四年生と言えば、ちょうど二けたの年になり、今までとは違ったように自分を意識する、節目の年頃だと思いますが、前半のしめくくりである「うそをつきました」という言葉には、おそらく「自分に対して」という意味も含まれるのではないかと思います。
後半は、バレンタインデーというイベントをきっかけに、 表題の「素直で笑顔」になる過程が語られています。ルミがさっそく、材料であるチョコレートを手に入れるために、「せかせか」とチョコレート屋さんに足を運ぶ様子は、ワクワクしています。また「屋根うら」に隠れてお父さんを驚かせようというところに、ドキドキした心の弾みが感じられます。そのような出来事を通して、次第にモヤモヤした気持ちが純化されていく様子には、ぜひとも一読者として見習いたいと感じました。
その途中、妹のレミを手伝う様子が描かれていますが、そこで今度もまた、ルミは屈折した心境に置かれます。つまり、「レミのことなんかほっておこう」という、トゲトゲしい気持ちに押され、自分の気持ちに「うそをつこう」としたわけです。けれども今度は、「素直な自分」の方が、いてもたってもいられなくなったのでした。こうして、誰かに見られての評価を期待するわけでもなく、また人に言われたからするのでもなく、ただおのずと「そうした方がよい」という素直な気持ちになって、姉としての行動を起こすところに、この物語のクライマックスがあります。
そこに「デザートようせい」(お菓子作りの精)が姿を現し、「妹のレミちゃんが生クリームをこぼしたのに手つだわなくていいの?」という声が聞こえる下りは、ルミの内心の代弁者たる「必然の要請」であるように感じます。またその後では、「ずっとデザートようせいが屋上からルミのことを見ていました」とあります。この時の妖精は、いわば読者と同じ視点に立つ存在です。そして、「どちらがいいか」を語らず、ただ無言の存在として、ルミ自身の行動を見守っています。そのことが、この作品の魂だと思いました。
また、バレンタインのプレゼントを、妹とばらばらに作るか否かで(おそらく作中で語られている様子から、妹は一人では台所に立つのにおぼつかない年だと推察します)、ルミは『なかなおり』の本を読むという行動に至って、二人分のとけあったチョコレートを使って、大きな犬の形を作ります。(犬は人間にとって「なかなおり」の象徴だと思います)。またそのプレゼントが、前半にハンカチを贈ってくれたお父さんへのお返しになっています。そこに物語の構造としての対称的な美しさがあり、よい終わり方だと思いました。
一つの作品をおしまいまで漕ぎつけることは、「大仕事」だと思います。けれどもひとたび終わったその苦労を、振り返って見ることができるのは、貴重な財産だと思います。なぜなら、いつかどこかで自分がまた行き詰っているとき、あの苦労が今度は力を貸してくれるに違いないわけですから。
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