福西です。
(その1)の続きです。
『リンゴ畑のマーティン・ピピン』は、複数の短編で一つの作品をなしています。それはただの短編集ではなく、花輪飾りよろしく、各短編をつなぐ「構造」もまた魅力的な作品です。
「第1話 王さまの納屋」に入るまでに、「はじめに」と「プロローグ」で(少年文庫版で)50ページほどあります。最初は「これは何の話?」と、じれるかもしれません。しかし、花輪作りや編み物をするように、その「作り始め」が全体のできばえを左右します。
短編の部分だけつまみ読みすると、その途中の乳しぼり娘(以下、乙女)とマーティンとのかけ合いが意味不明となり、面白さが半減するのです。
六人の乙女とマーティンとの心理的な距離感が、だんだん詰まっていくのを覚えながら読むと、抜群に面白いです。それなので、導入部分はどうしても欠かせません。
というわけで、以下は導入部の案内です。
はじめに
作者による、歌遊び「若葉おとめ」の説明です。
これが物語に「枠組み」を与えています。
プロローグ
「マーティン・ピピンがリンゴ畑に入ろうとして、策を弄し、迎え入れられるまで」が描かれます。
・農場の娘ジリアンが恋の病で、リンゴ畑の井戸屋形に引きこもって泣いている
・6人の乳しぼり娘(以下、乙女)が、ジリアンの見張り役を仰せつかる
・ジリアンの恋の病がなおらなければ、6人の乙女も自由になれない
・マーティン・ピピンは、ジリアンのことが好きなロビン・ルーと会う。ロビン・ルーはただ泣くだけ。マーティンは恋を取り持つことを約束する
・マーティンは以下のことを6人の乙女に信じ込ませるために、3たび変装して、リンゴ畑の入口に立ち、噂を流す
・マーティンは「まだ誰にも語られていない恋物語」を6つ聞かせれば、ジリアンの恋の病がなおると言う
・6人の乙女は、マーティンをリンゴ畑の中に入れ、話を聞かせよと言う