福西です。
『はらぺこオオカミがんばる』(ストー、掛川恭子訳、岩波書店)を読了しました。受講生のみなさん、おめでとうございます。
最終章は、「ルーシーのおよばれ」というお話。抜群に面白く、たぶん全編を通して、一番ではないかと思います。
ポリーの妹の小さいルーシーが、オオカミにさらわれます。
心配して探しまわったポリーが、オオカミの家の窓から目にした光景は、「ルーシーにかじられるオオカミ」という、逆転劇でした。
結局ひどい子守をしただけで、オオカミはルーシーを解放します。
「ポリー! ほんとうにいいところへきてくれた。たのむから、はやくはいってきて、うちじゅうのものをありったけたべられてしまわないうちに、あいつをつれてってくれよ。いっとくけど、あいつときたら、わたしのことまで、くおうとしたんだから。」
いったい何があったのでしょうか。それはここではすべて書き切れませんが、一シーンだけカットすると、こんな感じです。
「チョコ・ビッケ?」
「ないよ。で、でもね、とってもいいものがある。ほら、これさ。」
オオカミは、ぼろぼろにくずれた、バター・ビスケットをとりだしました。
「ビッケじゃない。」
「おいしいビスケットだよ。」
「ビッケじゃない。」
「そうだね、たしかに、そのとおりだ。いやらしいビスケットだ。こんなうまくないのは、ほしくないんだね。よし、こんどこそ、とびきりおいしいのをさがしてやろう。」
オオカミは、そのビスケットを、ココアのかんにもどしました。そして、しばらく、かんの中を、ごそごそかきまわしていましたが、さっきとおなじビスケットをとりだして、ほら、どうだとばかり、ルーシーにさしだしました。
「おさと。」
ルーシーがいいました。
「だめ。」
オオカミもゆずりません。
「おさと。」
「だめ。」(…中略)
「じゃ、菓子パン。」(…中略)
「そんなもの、ない……」
オオカミはそういいかけたところで、かんがえをかえました。そんなつもりはなくても、だんだん、やり方がうまくなってきたのです。ビスケットのかんをのぞきこむと、さもびっくりしたというように、演技力満点のさけび声をあげました。
「おや、これはなんだ。そんなもの、ないっていおうとしたんだが、かんのそこに、一つだけ、のこっていたよ。」
オオカミは、さっきとおなじビスケットをとりだすと、ふるえる手で、ルーシーにさしだしました。ルーシーは、うっとりした笑顔をオオカミに見せて、ビスケットをうけとりました。
「あいがと。」
なぜオオカミの手がふるえたのか、それを想像するだけで笑いがこみ上げてきます。
一文一文が愛すべき珠玉の短編です。