福西です。
『トムは真夜中の庭で』(フィリパ・ピアス、高杉一郎訳、岩波書店)を読んでいます。
2章の要約と内容確認のあと、3章『月の光のなかで』を読みました。
3章の冒頭は、次のようにあります。
この邸宅のアパートを借りている人たちはみな寝しずまっていたし、バーソロミュー夫人も眠って夢をみていたから、二階のおどり場やホールにある電灯は、みんな消してあった。ひとつだけあかりがあったが、それは階段のまんなかあたりにある縦にながい窓からななめにさしこんでいる月の光だった。トムは足でさぐるようにしながら階段をホールへおりていった。
この文章で、おそらく読者の注意は後半の「月の光」に向けられることでしょう。
しかし一度読んだことがある人には、ここにも作者の伏線が張ってあることに気づきます。
また以下は、トムが邸宅の裏がわのドアを開ける時の描写です。
トムはスリッパの片方をぬいで、それを入口の柱のところにたてかけ、スリッパをくさびのようにあいだにいれて、その上にドアをしめた。こうしておけば、かえってきたときに、ドアがあいたままになっているだろう。
この「片方のスリッパをドアに挟むこと」は、これから庭園へ行くための「儀式」として、何度も行われるようになります。その1回目です。
この作品を読み終えた読者は、このトムのスリッパを、きっと懐かしく思い出すことでしょう。
(その2)へ続きます。