「『トムは真夜中の庭で』を読む」(西洋の児童文学を読むB、2021/6/18)

福西です。

「西洋の児童文学を読むB」クラスは、この日から新しいテキストに入りました。

『トムは真夜中の庭で』(フィリパ・ピアス、高杉一郎訳、岩波書店)です。

第一章は、トムが母親と別れるシーンから始まります。

弟のはしかのせいで、おじさんの家にいかなければならず、おじさんが車で迎えに来てくれています。

母親は「本当にごめんね」と送り出します。

トムには、いろいろと不満があります。

・夏休みの計画(木の上に秘密基地を作ること)ができないこと

・誰も悪いことをしたわけではないので、誰にも文句が言えないこと

・おじさんとは話が合わないこと

・おばさんには甘やかされること

・おじさんの家であてがわれた部屋の窓に、幼児用の横木がさしてあったこと

・同じ年頃の遊び相手がいないこと

・イーリーの大聖堂のそばを通ったのに、おじさんがポストカードしか買ってくれなかったこと

不満だらけのトムですが、一つだけ好奇心をそそられたことがあります。

それは、おじさんのアパートの入口にある、大きな古時計です。

おばさんが「それは触ってはだめ」と言うのですが、トムはあとでこっそり調べようと心に留めます。

それが「不思議」の始まりです。

 

第1章の読後感はどうでしょうか。正直、「つまらない」と思います。

なぜなら、トムがそう感じているからです。

おじさんの車での移動。平坦な展開。

しかしトムの「つまらないと感じる心」こそが、ファンタジーが「生じる」引き金なのです。

そしてよく見れば、伏線がすでにいくつかセットされています。

たとえば、イーリーの大聖堂。これはクライマックスである23章「スケートの旅」の伏線です。

またこのお話では、「木」(にのぼる)という垂直要素と、「川」という水平要素がくりかえし出てきます。

そのストーリーの「構造」を、これから味わっていきたいと思います。