福西です。
「西洋の児童文学を読むB」クラスは、この日から新しいテキストに入りました。
『トムは真夜中の庭で』(フィリパ・ピアス、高杉一郎訳、岩波書店)です。
第一章は、トムが母親と別れるシーンから始まります。
弟のはしかのせいで、おじさんの家にいかなければならず、おじさんが車で迎えに来てくれています。
母親は「本当にごめんね」と送り出します。
トムには、いろいろと不満があります。
・夏休みの計画(木の上に秘密基地を作ること)ができないこと
・誰も悪いことをしたわけではないので、誰にも文句が言えないこと
・おじさんとは話が合わないこと
・おばさんには甘やかされること
・おじさんの家であてがわれた部屋の窓に、幼児用の横木がさしてあったこと
・同じ年頃の遊び相手がいないこと
・イーリーの大聖堂のそばを通ったのに、おじさんがポストカードしか買ってくれなかったこと
不満だらけのトムですが、一つだけ好奇心をそそられたことがあります。
それは、おじさんのアパートの入口にある、大きな古時計です。
おばさんが「それは触ってはだめ」と言うのですが、トムはあとでこっそり調べようと心に留めます。
それが「不思議」の始まりです。
第1章の読後感はどうでしょうか。正直、「つまらない」と思います。
なぜなら、トムがそう感じているからです。
おじさんの車での移動。平坦な展開。
しかしトムの「つまらないと感じる心」こそが、ファンタジーが「生じる」引き金なのです。
そしてよく見れば、伏線がすでにいくつかセットされています。
たとえば、イーリーの大聖堂。これはクライマックスである23章「スケートの旅」の伏線です。
またこのお話では、「木」(にのぼる)という垂直要素と、「川」という水平要素がくりかえし出てきます。
そのストーリーの「構造」を、これから味わっていきたいと思います。