福西です。この日(9/28)は、「前回」の続きで、三平方の定理についての実験をしました。
用意したのは、半径10cmの円。それに直径を一辺とする三角形です。三角形の二点は直径の両端に取り、残りの一点は、円周上の好きなところに取れることとします。そして、いろいろな三角形を描き、その(直径以外の)二辺の長さをものさしで実測します。
(若干線の引き間違いが含まれていますが、こんな感じに…)
さて、その結果です。三角形の辺の長さをa、b、また直径をc(=20)とおいています。
まずはa+bです。
(これは4人の生徒にそれぞれ記録をとってもらいました。そのうちの一枚です。上の写真では、5行目だけ、はかり間違いがありますが、あとは正確です)
ここで確かめてもらったことは、a+bはc(=20)よりも必ず大きくなるということです。 すなわち、
a+b>c
が言えるかどうかです。これの意味するところは、「三角形の二辺の和は、残りの一番長い辺よりも長い」ということです。
これを三角不等式といいます。そこで生徒たちに、「もしa+b=cが成り立つとしたら、それはどんな三角形になるか?」と質問しました。すると、「できひん」と答が返ってきました。
「だって、ぺちゃんこになる」
「どのように?」
「aとbの辺が、ぴったりと下(c)に張り付いてしまう」
「そうしたら、面積は?」
「ゼロ!」
というわけで、a、b、cが三角形の辺である限り、a+b>cとなることが確かめられました。この不等式はすごく当たり前のなのですが、ものすごく重要です。
次に、上の表をもとに、一辺をaとする正方形の面積(すなわちa×a)と、一辺をbとする正方形の面積(b×b)を計算してもらい、その和をとってもらいました。すると…
(今、5番目は明らかに間違いが含まれるので、それをのぞいて平均をとります)
(395.3+387.6+408.6+391.2+403.5)÷5=387.24
そして、他の3人の値も加えて全部で平均すると、さらに精度は良くなって、402.2ぐらいになりました。(個別にだと、平均してだいたい400±3%という結果になりました。)
さて、この400は、一体何を意味する数字なのでしょうか。
この円は半径が10でした。ということは、直径は20(=c)です。そうです。それをかけた、20×20が、400です。
すなわち、「a×a+b×b=c×c」が成りっているのではないか? という推論が立つところまで、実測してもらったわけでした。
さて、定理を証明したわけでもないのに、「果たして、 実測することに何の意味があるのか?」と思われるかもしれません。しかし、定理(しかも非常に有名なそれ)に「あたりをつける」ことは、もちろん意味があります。おそらく中学生に上がって同じくそれを習うときに、土台になってくれるものと信じています。
また、この日の授業を通してはっきりした事は、「ものさしではかる」ことが、慣れていそうで、実はあまり慣れていない、ということでした。もちろん、単純に「はかる」という問題が与えられているなら、さくさくとできるかもしれません。しかし、今回は途中に計算をはさんだり、記録したり、推論したりといった、「一連の作業」の中で、ものさしをあてる必要が出てきました。ですので、そのように別の顔をしながら、実はそれまでの復習をしてもらいたかった、というのが本音です(笑)。
たかが「ものさし」と言って、あなどってはいけません。「計量」は数学の基本です。また記録ミスや誤差をなくすことは、とても難しい課題です。今回それを実感したわけですが、目的があって、ひたすら計算し、ものさしをあてる回数を多くすることには、意味があると考えています。(それは四捨五入や、面積の計算にも関係してきます)。
そのことを、T君がはりきって、「ぼくは10も20もデータを取るぞ! だって、その方が正確になるから」と、わき目もふらずコツコツと、ものさしをあて続けてくれたことは、とても賞賛に値します。(それは時間の都合で20とまではいきませんでしたが、実際、時間の許す限りはかってくれて、全体の精度を上げることに貢献してくれました。)
おまけ
さて、上の三角形は条件を満たすなら好きなようにとってよかったわけですが、そこで、R君が面白いことを調べていました。
先に、三角不等式に触れましたが、その興味から、「ぺっちゃんこの三角形」を重点的に描いていました。すなわち、R君は分度器を持ってきて、1°の三角形、2°の三角形、3°の三角形…と、1°ずつずらして、とんがった(すなわちぺっちゃんこの)三角形を描いていたのです。
すると、面白いことが発見できました。
「見て! ほら、角度を2倍3倍にしたら、(一番短い辺の長さの)bも2倍3倍になっていってる!」
と。最初私は「それって、ほんと?」と疑ったのですが、しかし、確かにその通りでした。bの値は、0.3、0.5、0.9、1.2、1.5とならんでいました。
「ほらね」とR君。
「うん。ほんとにそうやな」と私。
「ね、言ったとおりでしょ!」と、さらにR君(笑)。
ふりかえって、その種明かしをすると、R君の調べてくれたbの値は、実はsin(x)にあたります。sin(x)は線形な関数ではないので、ふつうならxに比例しません。(なので2倍、3倍という結論はおかしくなるはずです)。
けれども、実は、その2倍、3倍が許される範囲があって、それが「xのごく小さな範囲」なのです。すなわち、
sin(x)=x-x^3/3!+x^5/5!-x^7/7!…
という、マクローリン展開というのを、大学の1回生のときに習いますが、これは「最良近似」を与える展開(すなわち項ごとの値が順番に小さくなっていき、その項が増えるほど近時がよくなっていく展開)となっています。なので、xが小さな時は、第1項で打ち切って、
sin(x)≒x
とすることができます。(注:ただしxは、ここでは弧度法による角度で、実際の角度θに2π/360をかけたものとします)
すなわちこれは、y=xという例の一次関数の形であり、R君がはかってくれたθ=5°までの範囲では、xも小さいとみなせる範囲なので、ほぼ角度に比例した値が出たということにも、うなずけます。R君、すごいですね!