山びこ通信2020年度号(2021年3月発行)より下記の記事を転載致します。
『ひねもす』(つくる4〜6年)
担当 福西 亮馬
シンプルにするほど、奥が深くなるものがあります。たとえば将棋です。大昔には「大将棋」というものがありました。盤は15×15、駒は130枚。ロマンに溢れていますが、「一局指せばもう十分」と思う人が大勢を占めるのではないでしょうか。なぜなら、将棋の面白さは手を読み合うことにありますが、それが大将棋ではほぼ不可能だからです。そこで、将棋はその後、簡略化を重ね、現在の9×9、40枚の形に落ち着きました。その人気の高さは言うまでもありません。奥深さが、複雑よりもシンプルを目指して得られた例です。
昨年度から、クラスの内容を「ひねもす工作」一つにしました。ひねもす工作では、「切る」と「穴開け」の二つの作業から、さまざまな形が作れます。そして、意図したものが完成するまで、何時間でも取り組めます。作業そのものは単純で、面倒くさい点をのぞけば、継続可能だからです。実際、面倒くささよりも問題となるのは、ゴールに至る道筋、形の本質を見抜くことです。それが見抜けなければ、どうやっても不可能だからです。そこには将棋の「詰み筋を見つけること」と似た楽しみがあります。また、部品をさらに部品化して、もうこれ以上部品にできないというところまで掘り下げる必要性が出てきます。それが、ひねもす工作だと言っても過言ではありません。そうやって一から部品化し、組み立て、完成したときの喜びは、次の創作意欲にもなり、好循環が生まれます。
あと、ひねもす工作に必要なものは、時間です。実際には忙しいけれども「忙しい」と口にせず、時間をいかに調達できるかにかかっています。そのための取っかかりは、「シンプルであること」です。もし世の中に、複雑なもののためにより複雑なものを準備して悪循環に陥る流れがあるとしたら、われわれはその「逆」を行きましょう!