山びこ通信2020年度号(2021年3月発行)より下記の記事を転載致します。
『西洋の児童文学を読む』A
担当 福西亮馬
昨年度、『はてしない物語』(エンデ、上田真而子ら訳、岩波書店)を読了しました。受講生のみなさん、おめでとうございます。
つぎは『小公女』(バーネット、高楼方子訳、福音館書店)を読んでいます。四分の三にあたる第14章まで進みました。セーラは、大金持ちの子から突然みなし子となり、寄宿学園の下働きをさせられます。彼女の心を支えたのは「想像力」でした。セーラは次のように言います。
「いちばん寒かったときも……いちばんおなかがすいていたときも……ほかのものにはならないようにしようって……努めていたんです」(18章)
と。「ほか」とは「王女以外」のことです。セーラは、想像力に欠ける人々のどんな仕打ちに対しても「王女になったつもり」で忍び、心までは貧しくならなかったのでした。題名が『小公女』(A Little Princess)であるゆえんです。第17章「この子がその子だ!」で、セーラはインドの紳士に保護されます。その劇的な場面をクラスで読むことが何より楽しみです。3月に読了の予定です。
つぎのテキストを紹介します。『クローディアの秘密』(カニグスバーグ、松永ふみ子訳、岩波少年文庫)です。十二歳のクローディアは是が非でも秘密を持ちたくて、家出──ただし快適な──を決意します。そこで家出先に選んだのが夜のメトロポリタン美術館でした。それだけでも面白い展開ですが、彼女は美術館の天使像について、真贋の秘密に触れます。
「秘密が内側から人を支える」という作品のメッセージは、十代の読者にきっと響くだろうと思います。またクローディアが出会った老婆の言葉で、幸福とは「わきたつ感情が心の中に落ちつき場所を見つけること」だとあります。一体どういうことなのかを深く考えさせられる作品です。お楽しみに。
(来年度、中学に上がる受講生については、『西洋の児童文学を読むC』を設け、続きを読みます。ぜひご参加ください)