『ことば』4〜5年クラス便り(2021年3月)

山びこ通信2020年度号(2021年3月発行)より下記の記事を転載致します。

『ことば』4〜5年

担当 中村安里

 「王子さまへ、私は王子さまに、見えない物こそ大切ということに気づかされました。私は、見えている人、物、その人が言った言葉だけを見ていろいろ言っていたけれど、その言葉のうらや、思いには、他に思っていることがあるかもしれないと気づきました。そして、自分がたくさん同じ物がある中で、そのたった一つをとても愛するだけで、その一つはとっても大切で特別な存在になる人だと知りました。私は今「石を選べ!」と言われたら適当にもってくるけれど、昔は、「絶対にこれがいい!」というのがありました。そのように、一つの物を愛するだけで特別と思えるんだと、改めて気づかされました。そんな、素晴らしいことを教えてくれた王子様が私は大好きです。」

 この文章は愛する友人が述べてくれたものです。その友人は、今回のことばのクラスに参加してくれていました。とても素直で、愛らしい感想に感謝します。

 この感想を読んでお気づきの方もいらっしゃるでしょう。今回のことばのクラスでは、サン=テクジュベリ「ちいさな王子(星の王子さま)」を朗読しました。原題は「Le Petit Prince」で「小さな王子」という意味です。元々はフランスの作家アントワーヌ・ド・サン=テクジュペリが第二次世界大戦中に亡命先のアメリカで発表した文章です。現在は世界各国の言語に翻訳され世界中で愛されている名著となっています。

 今回このクラスを開催する中で、まさに作品中で重視されていた「目に見えない関係」を二人の大切な友人と築いていく機会となりました。初めてのクラスでは、一人の友人に目隠しをしてもらい、もう一人の友人に彼女をエスコートしてもらいながら山の学校内にある急な石段を登りました。私は、当初はこの体験を通じてリーダーシップを学んでもらおうなどといった目的ありきの手段としての経験を勝手に想定しておりましたが、私の浅はかな期待とは裏腹に、二人の友人はもうすでに見えない関係を築き、石段を目隠しで登る中で生まれるスリルさえも楽しんでいたのです。この瞬間私がやることといえば、ただ後ろで転んでもいいように見守ったこと、そうそれがこのクラスにおける私のスタンスとなりました。

 二人の友人とはたくさんの思い出があります。王子様が物語の中で、相手が感じていること、思っていることにすぐに気づいてしまうので度々驚かされながら、旅を共に進めました。そして、友人の一人のそのまた友人が親御さんを亡くされたということを聞き、その時には死について向き合う会を開きました。「死ぬってどういうことなのだろう?」世界各国で死後の世界について色々な解釈がなされていることについても語り合いました。数々のことばと思いを残し亡くなった日野原重明先生の書籍からも学び「いのち」について、語りあいました。そして王子さまから学ぶこともありました。たとえ姿が見えなくなったとしても、その間で築かれた目に見えない関係はずっとその人の心に留まり、私たちが経験している世界さえも変えてしまうことであるのだということを語り合いました。

 資本主義社会の中で人材も商品も代替可能で大量生産されており、私たちは虚構のシステムの中で目まぐるしく歯車のごとく働き、生きており、気づいたら私たちの心は乾き、乾いていることすら気づかない状況になっているのではないでしょうか?

 星の王子さまを読む中で、大人も子どももゆっくり立ち止まって、目に見えない大切なものに気づいていくこと、そしてかけがえのない代替のきかない存在が今ここにあるのだということに感謝して感激して共に生きていけたらどんなに幸いなことだろうかと思わされるのです。私の大切な二人の友人、王子様、サン=テクジュペリさん、このようなことを気づかしてくれたこと本当にありがとう!

 最後に・・・・「王子は目をつぶったまま水を飲んだ。なにかのお祝いみたいに、嬉しさがこみあげてきた。その水はただの飲み物などではなかった・・・・心にもおいしい贈りものなんだ。」ここでは水が喉の渇きだけではなく、心の乾きまで潤したことがわかります。この文章を読むとわたしはあることばを思い出します。「しかし、わたしが与える水を飲む人は、いつまでも決して渇くことがありません。わたしが与える水は、その人の内で泉となり、永遠のいのちへの水が湧き出ます。(新約聖書ヨハネ福音書4:14)」と。今このコロナの被害が拡大し、病院で救護に回っている方々、孤独を感じている人、心に渇きのある方々全ての方々の心の内が溢れるばかりの愛で満たされるようお祈り申し上げます。