山びこ通信2020年度号(2021年3月発行)より下記の記事を転載致します。
『ことば』5〜6年
担当 福西亮馬
2020年8月から『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』(斎藤淳夫、岩波文庫)を読んでいます。この稿を書いているときには、32章あるうちの30章まで読みました。ネズミとイタチの戦いを描いた叙事詩です。残すは2章。いよいよ読了間近です。
読んだ後は各章ごとに要約をしています。あるとき、受講生のR君が、自分から「要約をしたいので、作文用紙をください」と言ったことがありました。私がそれを言う前に用紙を欲したのです。キケローの書いたものに、プラトンからの引用で「自分で自分を動かすものは永遠」(『国家』6.28)という言葉があります。それを思い出しました。
つぎのテキストを紹介します。『タイム・マシン 他九篇』(ウェルズ、橋本槇矩訳、岩波文庫)です。『水晶の卵』、『ザ・スター』、『新加速器』などが収められています。残り数回ですが、クラスでひもとくことを楽しみにしています。
R君はクラスの待合時間、いつも『北欧神話物語』(K・クロスリイ・ホランド、山室静ら訳、青土社)を山の学校のカウンターから借りて読んでいました。授業がはじまると栞を挟み、本を戻します。その姿を毎週のように見かけました。ついに読破したあかつきには、その本をクリスマス・プレゼントとしてもらったそうです。そういうわけで、北欧の神々のことをたずねると、打てば響くように話してくれました。
北欧神話は、ラグナロクとよばれる終わりの確定している運命観を持ちますが、そこに尽きせぬ魅力を感じるそうです。そしてその世界観を一つの基調として、小説も書いているとのこと。何度かホワイトボードでそのアイデアを説明してくれました。秘密にすべき新規性があるので、詳細をお伝えできないのが残念ですが、とにかくすごいです。一本の骨太な物語にいくつもの他の物語がからまり、まるで世界樹のような壮大な物語群をなしていました。神話、SF、ファンタジー、さまざまな本から影響を受け、咀嚼し、自分の未来の物語として出力していることがわかりました。ぜひ作品に「終わりを与える」ことを応援しています。