山びこ通信2020年度号(2021年3月発行)より下記の記事を転載致します。
『西洋古典を読む』(中高生)
担当 福西亮馬
このクラスでは、ウェルギリウス『アエネーイス』(岡道男・高橋宏幸訳、西洋古典叢書)を読んでいます。現在、第6巻です。
アエネーアスは、巫女のシビュッラを道案内に、冥府へ下ります。目的は父アンキーセスの霊に会うためです。第6巻の真ん中近く、嘆きの川の渡し守カローンが止まれと言います。この稿を書いている時点で、そこまで読みました。このあとは、ディードーの霊が出てきます。ディードーは、アエネーアスを助けたカルターゴーの女王です。彼女はアエネーアスと恋に落ちたあと、彼がイタリアに向けて出発したことを嘆いて自殺したのです。そのディードーの霊に対して、アエネーアスは「神々の命令だったのだ」と言います。また第6巻の最後には「ローマ人のカタログ」と呼ばれる箇所があります。アエネーアスが、自分のあとの時代に生まれるローマ人の魂の列を目にし、父の説明を受けながら励まされるシーンです。しかしその未来の列には、夭折を運命づけられた若者も並んでいます。第6巻は過去と未来が交錯する巻です。お楽しみに。
さて、第6巻の途中から、英文訳を日本語に訳すことに挑戦しています。『The Aeneid』(Robert Fagles訳、Penguin Classics、ペーパーバック2010)を使っています。ペースは20行ほどです。はじめのうちは、ほとんどの単語に辞書を引かないといけないので、何時間もかかり大変だろうと思います。一方、受講生のA君は、辞書を引くことを「旅」だといいます。そのようにmustではなくて、好奇心の対象とできる余裕に、以前A君と一緒に読んだ、セネカ『人生の短さについて』の暇(otium)を思い出します。
テキストを読んだあとの時間は、A君が、以前に読んだ本のことをレクチャーしてくれます。この間は、『中世チェコ国家の誕生』(藤井真生、昭和堂)でした。「一口に封建時代といっても、黎明期のそれはイメージとだいぶ異なっていて興味深いです。本当の歴史は均質ではなく、流れているのです。それを時代の名称で区分することは、あたかも川をいったんせき止めて、水質調査するようなことなのです」というA君。そのようなA君の熱意を受けながら、私も学ぶことを励まされています。