ガイダンスの感想『現代ギリシア語』(2021/03/23)

事務担当、梁川です。

3月22日には、『現代ギリシア語』クラスの福田耕祐先生によるガイダンスが、研究滞在中の「ギリシアから(!)」オンラインで行われました。

パワーポイントを駆使しながら、「現代ギリシア語」とは何か、その定義から始められ、どのような教科書を用い、どんなことを学べるか、一通りご説明頂きました。(以下、先生の表記に則り「ギリシア」と表記します)

ギリシア語はギリシア共和国、及びギリシア・ディアスポラで話されている言葉で、古典ギリシア文芸の直接の子孫として、ギリシア神話やギリシア古典に範をとった作品が数多くあり、また、日常の話し言葉、書き言葉の中にも古典ギリシア語の言い回しが残っているそうです。
まず、そのような点で、学ぶ価値があると言えます。

そして、現代ギリシア語は大きく分けて「口語」と「文語」に分かれます。
(以下について、詳しくはこちらの「現代ギリシャ語」クラス概要のページも御覧下さい。)

 

まず、「口語」について。

「文法」と、その先にある「講読」の内容の説明です。
「文法」では、『エリニカ・トラ』という、繰り返しの練習問題が沢山載っていて身につく教科書を用います(ギリシアでしか売っていないそうなので、受講される際は入手法をご案内します)。この教科書を終えれば、ヨーロッパ国際規格のレベル、A1、あるいはA2試験も受けれるレベルに達するそうです。

「講読」で2つ目に挙げているテキストが、ニコス・カザンザキスの記した、ルポタージュ『日本旅行記』なのですが、カザンザキスの妻によれば、彼は当時来日した二人目のギリシア人だったそうです。ですから、諸外国の方によるものは多々あれど、ギリシア人が日本文化について記したもの自体が、とても珍しいそうです。

 

次に「文語」(「近現代ギリシア・文語」)というものについて、詳しく説明してくださいました。いわゆる「文章語」ですから、新聞や学術論文のようなものに出てくるギリシア語です。(そして、これについて研究したり学んだりできる場所は、大学にも殆どないらしく、「読む」ということを大事にしている、まさに「山の学校らしい内容」であると、福田先生は付け加えて下さいました!)

「古典ギリシア語」に模して造られた文体で、それが文語なのか口語なのかという議論は100年ぐらい続いたらしく、また、20世紀後半まで用いられたので、今の60代くらいの人なら話し言葉として使っていたそうです。

誤解を恐れず言えば「古典ギリシア語の文法と単語を用いつつ、語順を今風に並べ替えたもの」と考えると分かりやすいそうです。

ここ50年ほどの間に、一気に話されなくなったのは、文語を政府が強制していた時期があり、それが民主主義に反するということで反感を買い、廃れていったそうです。しかし、日本でも戦前には文語を用いた文学作品があったり、言文一致運動があったりしたように、ギリシア語でも文語による多くの優れた文学、哲学の作品(ややこしいですが、言うなれば「現代ギリシア語古典」)が残されてるという点で、「文語」を学ぶ価値があります。

また、「古典ギリシア語」を学んでいると、何となく「文語」も分かってしまうそうです。

ですから、「文語」の「文法」を学ぶためには、古典ギリシア語か、現代ギリシア語の文法知識がある方が望ましいです。

また、文語の「講読」テキストとして挙げている、アレクサンドロス・パパディアマンティスによる作品は、「地の文が文語、会話文が口語」という独特の文体が作品の価値であり面白さなのですが、背景として、「文語で書かないことは野蛮」とみなされる時期があり、そうした時代の変遷にあって、作家が苦悩の末辿り着いた文体であったようです。

 

福田先生の説明が終わり、参加者が質問や発言をしました。
「カザンザキス」がなぜ「口語」で主要な作品を残しているかという質問が出ました。先生によると、それは彼の中に「言語というものは変わっていくものだ」という柔軟な考え方があったからなのだそうです。

また、別の参加者の方は、現在イタリア在住で、夏には毎年のようにギリシアを訪れるため、どちらかと言えば、観光者として、会話ができるようになりたいという動機をお持ちでした。その方は、山下太郎先生の「ラテン語講習会」でも学ばれている方で、ラテン語を学ばれている動機については、「イタリア語文法でひっかかることがあったときに、ラテン語を学ぶことでその理由が分かるのではないか」と思ったからだそうです。

イタリアが話題に上がったことで、福田先生からは、「イタリア南部で話されているギリシア語の中には、昔のギリシア語が保存されている」といった話や、イタリアの高校では、文系でも理系でも「古典ギリシア語」は必修(文系の人はラテン語も必修)であることなど、ギリシアとイタリアの関係が、非常に密接であることのエピソードを話して下さり、とても興味深かったです。

以上、長くなってしまいましたが、拙いながら、「現代ギリシャ語」クラスガイダンスの様子をお伝え致しました。
強いて言えば、最初に文字を覚えるところは大変かもしれない、と先生は言われていましたが、こんなにも面白い言語なのですね!
古典語とも密接ですし、ぐんと世界が広がって見えそうです。

「現代ギリシャ語クラスについて、ご質問があれば、いつでもどうぞ!(←福田先生より)」