福西です。
『トムは真夜中の庭で』(フィリパ・ピアス、高杉一郎訳、岩波書店)のあらすじ紹介の続きです。(前回はこちら)
トムにとっては、庭園に出てくる人たちは「昔に生きていた人(死者、幽霊)」に見えます。
一方、ハティにとっては、トムは「パジャマを着た妖精」に見えます。
それはお互いにタブーでした。しかしトムがそれを破り、ハティを問い詰めたことがありました。
ハティは、トムの口から「幽霊」と言われて傷つきます。
「わたし、死んでなんかいないわ。――ねえ、トム、わたし死んでなんかいないわ!」
ののしりあいをやめてみると、けっきょくなにがほんとうなのか、トムにはわからなくなってしまった。わかっているのは、ハティがせつなそうに泣いているということだけだった。
両親が死んで、ハティがさみしがっていることを、トムはもちろん知っています。そしてそのことを言ったのではありませんでした。しかし、ハティにはそう受け取られてしまいます。
トムは、「泣かれる」という(幽霊のものとは思えない)リアルな反応に、「わけがわからなく」なり、自分も心を痛めます。
自分は妖精ではない。
ハティも幽霊ではない。
二人とも生身の人間。
しかし庭園は時代がかっている。
トムはその謎を解こうとして、「時間」について、一生懸命、考えます。
そして自分が時間を遡っているのだと気付きます。
「庭園のなかの『時』はあともどりできるわけだから、」と、トムはつぶやいた。「ハティは今夜またもとの小さな女の子になっているだろう。そしたら、ぼくたちはいっしょに遊ぶんだ。」
庭園の魅力は、トムを「もとの時間には永遠に帰らないぞ、ハティとの時間を永遠にするんだ」と決心させるに至ります。
しかしトムの姿は、ハティの目からは次第にうすらいでいきます。なぜなら、ハティがもう大人になりかけていることに、トムもうすうす気付いていたからです。けれどもトムはそれを否認します。
「もう時がない」
その黙示録の詩句を、トムは大時計に認めます。
(その3に続きます)
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