福西です。
テキストの『クローディアの秘密』(カニグズバーグ、松永ふみ子訳、岩波少年文庫)について紹介します。
訳者あとがきに、次のような文章があります。
一家がそろってピクニックに出かけました。(…)ところが陽ざしが強いので、カップケーキのクリームはとけてべたべたになるわ、蟻は這いのぼるわ、子どもたちは不平たらたらです。まあ、この子たち、ふだんは家出するの、勇ましいことを言ってるけど、果たして家出なんかできるのかしら?
そこで三児の母親である作者は想像をめぐらせます。
もしできたとして、どこへ? 少なくとも山の中の野宿はできそうもないわ。(…)ずっと快適でずっとエレガントなところ、そう、美術館ぐらいだわ、と都会ぐらしのお母さんは考えました。
こうして誕生した物語の、第一章冒頭は次の通り。
むかし式の家出なんか、あたしにはぜったいにできっこないわ、とクローディアは思っていました。かっとなったあまりに、リュック一つしょってとびだすことです。クローディアは不愉快なことがすきではありません。
「快適さに慣れた都会の子どもの家出」という点が、この作品の新しさです。
そして、物語のテーマが提示されます。
あたしの家出は、ただあるところから逃げだすのではなく、あるところへ逃げこむことにするわ、ときめました。
クローディアは、弟のジェイミーを誘い、綿密に計画を立てます。
家出の目的は、逃げこんだ先で「秘密を得る」こと。
そして「秘密を持ち帰ったクローディアになる」ことです。
「行きて帰りし物語」の定型を持つこの作品は、子どもの中にある大人の心だけでなく、大人の中にある子どもの心をも、つかんで離さないでしょう。
読んだ方もまた、クローディアと一緒に、きっと何かを持ち帰ることができると思います。
ご参加をお待ちしています。