福西です。
現在「ことば2~3年」クラスに通う受講生が、1年生だったころから紹介した俳句です。
冬の句が多くなりました。一覧にして、備忘録までに。
三春(2~4月)
鉛筆を落せば立ちぬ春の土 虚子
春の浜大いなる輪が画いてある 虚子
ゆらぎ見ゆ百の椿が三百に 虚子
赤い椿白い椿と落ちにけり 碧梧桐
まり投げて見たき広場や春の草 子規
掌にふくれ乗りくる春の水 野村泊月
暖かやお化けが出たる紙芝居 松藤夏山
つばめつばめ泥が好きなる燕かな 細見綾子
蒟蒻はとはにふるえて春の雪 池田澄子
春の海まつすぐ行けば見える筈 大牧 広
春の山たたいてここへ坐れよと 石田郷子
うぐひすに見せてはならぬ鏡かな 夏井いつき
桜貝ビスコの箱に入れてある 夏井いつき
水の地球すこしはなれて春の月 正木ゆう子
光るもの拾ひたくなる春の浜 小野あらた
初春(2月)
梅一輪一輪ほどのあたたかさ 嵐雪
仲春(3月)
長靴はどこへもゆけて水温(ぬる)む 茨木和生
晩春(4月)
チューリップ喜びだけを持つてゐる 細見綾子
ふだん着でふだんの心桃の花 細見綾子
この地球よりチューリップの芽が大事 田中裕明
川底に蝌蚪(かと)の大国ありにけり 鬼城
猫の子のふにやふにやにしてよく走る 大木あまり
三夏(5月~7月)
蟻の道雲の峰やりつづきけん 一茶
やれ打つな蠅が手をすり足をする 一茶
ひつぱれる糸まつすぐや甲虫(かぶとむし) 高野素十
翅わつててんたう虫の飛びいづる 高野素十
青蛙おのれもペンキぬりたてか 芥川龍之介
滝の上に水現れて落ちにけり 後藤夜半
あめんぼと雨とあめんぼと雨と 藤田湘子
真夏日の鳥は骨まで見せて飛ぶ 柿本多映
南風吹くカレーライスに海と陸 櫂未知子
水やれば咲くかもしれずかたつむり 櫂未知子
水筒の暗き麦茶を流しけり 小野あらた
初夏(5月)
同じ日が毎日来る柿の花 松藤夏山
そら豆はまことに青き味したり 細見綾子
筍や雨粒ひとつふたつ百 藤田湘子
仲夏(6月)
五月雨をあつめて早し最上川 芭蕉
五月雨の降のこしてや光堂 芭蕉
夏桃はまだ毛の多き苦さかな 子規
おおかみに螢が一つ付いていた 金子兜太
じゃんけんで負けて蛍に生まれたの 池田澄子
幸せのぎゆうぎゆう詰めやさくらんぼ 嶋田麻紀
晩夏(7月)
閑さや岩にしみ入る蝉の声 芭蕉
ほんものの農家に泊まる夏休 櫂未知子
水遊びする子に先生から手紙 田中裕明
三秋(8月~10月)
ほろほろとむかご落ちけり秋の雨 一茶
をりとりてはらりとおもきすすきかな 蛇笏
芋の露連山(れんざん)影を正しうす 蛇笏
鰯雲子は消ゴムで母を消す 平井照敏
ピーマン切って中を明るくしてあげた 池田澄子
初秋(8月)
朝顔に本読まぬ日のつづきけり 田中裕明
椅子置けば部屋となりけり遠花火 櫂未知子
洗ひ障子赤のまんまに置きにけり 松藤夏山
仲秋(9月)
大いなるものが過ぎ行く野分かな 虚子
晩秋(10月)
柿食へば鐘が鳴るなり法隆寺 子規
日のくれと子供が言ひて秋の暮 虚子
秋刀魚焼く匂の底へ日は落ちぬ 楸邨
いなびかり北よりすれば北を見る 橋本多佳子
くるみひとつころがりひとつおとちがう 藤田湘子
団栗にまだ傷のなき光かな 神野紗季
かき混ぜて起伏大きく茸飯 小野あらた
三冬(11月~1月)
生きながら一つに氷る海鼠かな 芭蕉
大根引き大根で道を教へけり 一茶
蒲団着て寝たる姿や東山 嵐雪
冬蜂の死にどころなく歩きけり 鬼城
流れ行く大根の葉の早さかな 虚子
大空にのび傾ける冬木かな 虚子
冬山やどこまで上る郵便夫 渡辺水巴
咳の子のなぞなぞあそびきりもなや 中村汀女
冬菊のまとふはおのがひかりのみ 秋桜子
木の葉ふりやまずいそぐないそぐなよ 楸邨
今日も目を空へ空へと冬欅 楸邨
鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる 楸邨
ゆびさして寒星ひとつづつ生かす 五千石
手が見えて父が落葉の山歩く 飯田龍太
寒林の一樹といへど重ならず 大野林火
寒林といふ目の前の遠きもの 高橋謙次郎
ライターの火のポポポポと滝涸るる 秋元不死男
水枕ガバリと寒い海がある 西東三鬼
冬空やキリンは青き草くはへ 森田 峠
新刊の冷たさ愛す冬旱 宮坂静生
冬木の芽ことば育ててゐるごとし 片山由美子
だいこんの白さは生きていく白さ 中村明子
マヨネーズの口の星型悴めり 小野あらた
恋人は美人だけれどブロッコリー 小枝恵美子
ジャンパーを脱ぎ捨ててすぐ仲良しに 高田正子
初冬(11月)
古家のゆがみを直す小春かな 蕪村
鳥たちに木の実の豪華冬はじまる 八幡城太郎
とびばこのつき手いっしゅん冬がくる 友岡子郷
かくれんぼ三つかぞえて冬となる 寺山修司
ポケットに入らぬものに朴落葉 夏井いつき
初雪の二十六萬色を知る 田中裕明
仲冬(12月)
クリスマスカード消印までも読む 後藤夜半
晩冬・新年(1月)
去年今年(こぞことし)貫く棒の如きもの 虚子
封切れば溢れんとするカルタかな 松藤夏山
几巾(いかのぼり)きのふの空のありどころ 蕪村
もち焼いて新しき年うらがえす 原 裕
元日の開くと灯る冷蔵庫 池田澄子
一月の川一月の谷の中 飯田龍太
雪の朝二の字二の字の下駄の跡 田捨女
いくたびも雪の深さを尋ねけり 子規
靴紐を結ぶ間も来る雪つぶて 中村汀女
雪沓の喜ぶ雪の深さあり 後藤比奈夫
泥に降る雪うつくしや泥になる 小川軽舟
水仙を見てはきれいなうそをつく 田原正彦
しかられて目をつぶる猫春隣 久保田万太郎
(作者年代や季語カテゴリーは順不同です)