福西です。
中学生クラスです。
『はてしない物語』(エンデ、上田真而子ら訳、岩波書店)の「13 夜の森ペレリン」を読みました。
バスチアンは、ファンタージエンに入り、アウリンで三つの望みをかなえます。
1)幼ごころの君の顔が見たい
2)幼ごころの君にふさわしい容姿になりたい(かっこよくなりたい)
3)力強くなりたい
1)の望みで、宇宙規模の光る森が現出します。その光でバスチアンは幼ごころの君を認識します。
2)の望みは、「どうして早く来てくれなかったのか」となじる幼ごころの君に対し、「恥ずかしかったから」と答えたからです。
3)の望みは、幼ごころの君が忽然といなくなって生じます。バスチアンはしかたなく植物の部屋から抜け出し、広大な外の森を探索します。そこでのターザンごっこのような経験を「幼ごころの君がいなくても楽しい」と感じ、「ぼくはこの世界の王なんだ」と満足します。
受講生のK君が「新しいファンタージエンの姿に、幼ごころの君も驚いている」と指摘してくれました。幼ごころの君は望をかなえる力は持っていますが、それがどのような結果になるかまでは知らないことが伺えます。物語の現在を生きて、物語の未来を作るのはバスチアンだということなのでしょう。幼ごころの君は、バスチアンの主体性を喜ぶ存在です。
この章にはバスチアンと幼ごころの君しか登場しません。その会話はあたかも母子の睦み合いのようです。バスチアンは、ファンタージエンの生まれ変わりと並行し、自分自身の生まれ変わりも経験します。その後、いなくなった幼ごころの君の「まなざし」を感じながら、真の望みである現実世界への帰り道を探します。
この作品のテーマは、一つには、バスチアンと父親との関係修復です。バスチアンは母親との死別後、「父親がぼくのことを愛してくれていない」と感じています。その現実世界での課題に、バスチアンは物語世界をいったんくぐり抜けた後、向き合うことになります。その直近の練習が、最終章まぎわの「変わる家」(24章)と「絵の採掘坑」(25章)の経験です。
そして「生命の泉」(26章)で、名無しの存在となった後、アトレーユに代わりに名前を答えてもらうことで帰還します。この作中人物との友情もまた全編を貫くテーマの一つです。
けれども、物語の中のバスチアンはまず、幼児的万能感とその挫折という「抑うつの道」を通ります。
次回は「14 色の砂漠ゴアプ」です。