福西です。
『はてしない物語』(エンデ、上田真而子ら訳、岩波書店)の『Ⅸ 化け物の町』を半分読みました。
アトレーユは、フッフールが自分を探しているとはつゆ知らず、一人ぼっちのまま、廃墟にたどり着きます。そこで巨大な人狼(人語を話す狼)と出会います。人狼は壁に鎖でつながれ、まもなく死んでしまう様子でした。
アウリンのないアトレーユは、何一つ失うもののない強さを持っているかのようでした。しかし内面では希望を失い、投げやりになっているのでした。そして「だれでもない」と名乗り、人狼に食われても構わないつもりで、話しかけます。
人狼はグモルクという名前で、いくつもある世界を行き来し、自らの世界を持ちません。「虚無に飛び込んだ者たちはどうなったのか」というアトレーユの問いに、「人間の世界に行った。しかしその時にはもう自分は自分ではなくなってしまっているのだ」と答えます。では何になるのか?
「秘密を明かしてくれ! わたしは向こうにゆけば、何になるのだ?」
グモルクは皮肉な表情を浮かべて答えます。
「虚偽(いつわり)だよ! 人間の頭の中の妄想になるんだ」
と。
グモルクとの対決は、どん底で自分と向き合っているかのようで、たいへんドキドキします。
受講生のFちゃんが、アトレーユが虚無に飛び込む話をしていることについて、「鉄漿(おはぐろ)を塗るみたいに覚悟を決める」と言っていました。虚無を歓迎できない気持ちを、現代人の日常にない習慣で言い留めた、大変ユニークな連想だと思いました。
実はグモルクとの会話を通して、アトレーユはしだいに希望を取り戻していきます。そして、グモルクが何に失敗し、ここに鎖でつながれているのか、その理由を知ります。
「だれでもない」と名乗っていたアトレーユは、次回、
「わたしが、そのアトレーユだ。」
と正体を明かします。『はてしない物語』の中でもかっこいいシーンの一つです。お楽しみに。