西洋古典を読む(2019/6/27)

福西です。

ウェルギリウス『アエネーイス』(岡道男・高橋宏幸訳、西洋古典叢書)を読んでいます。

第2巻に入りました。(1~60行目)

ディードーにトロイア戦争の話を頼まれたアエネーアスは、最初は固辞します。いまのアエネーアスには、記憶が思い出として結晶化する(思い出すことが快くなる)までの時間がたっておらず、生々しい傷に触れるような気持ちなのでしょう。

しかし、それほどお望みならば、「悲しみ」(dolor)だけれども物語る苦労(labor)を始めよう、と承知します。もちろん、読者に向かって苦労するのは、作者ウェルギリウスです。

アエネーアスの話は、トロイアを落とすことをあきらめた(と見せかけた)ギリシャ勢が、巨大な木馬を岸辺に置いて行ったところから始まります。

トロイア人は、「これで戦争が終わった」と思い込みたい者がほとんどです。城を出て木馬を見に行き、意見が二つに割れます。「罪滅ぼしのために置いて行ったのだ」と、「いや、罠だ」と。

受講生のA君は、木馬を傷つけずに中身を調べる手立てとして、「クサントゥスがいれば」(アキレウスのしゃべる馬。アキレウスの死を予言する)と言っていました。

そこへ「不幸な市民たちよ(cives)」と叫びながら、神官のラオコオンがやってきます。

ラオコオンの名台詞です。

「馬を信じるな、テウクリア人よ。これが何であろうと、わたしはダナイ人を恐れる、たとえ贈り物を携えてきても」

(2.48-9  岡道男・高橋宏幸訳)

ラオコオンは槍を投げ、それは木馬の腹に突き刺さります。(*)

このとき、木馬の中にいたウリクセース(オデュッセウス)たちは、どんな気持ちだっただろう、という話になりました。もちろん、木馬の中はしーんとしています。

さて、このタイミングで、シノンというギリシャ人がつかまり、木馬の前に連れてこられます。

次回は61~93行目を読む予定です。

 

(*)ラオコオンはこの後、海からやってきた蛇に殺されてしまいます。その怪異に恐怖したトロイア人は、「木馬を傷つけた罰があたったのだ」と解釈し、急いで木馬を場内に引き入れることになるでした。というのも、シノンが「木馬はアテネのための奉納物だ」と言っていたからです。しかし、実際には蛇を放ったのは、ユーノーでした。次回以降の内容です。