福西です。
『無限論の教室』(野矢茂樹、講談社現代新書)を読んでいます。
「第九週」の前半(p142~149)を読みました。
ラッセルのパラドクスが登場しました。
それに付随して、「集合の集合」が作り出す矛盾の例を、5つ紹介しました。
1 図書館目録のパラドクス
この図書館には、自分のことを引用していない本(たとえば作者名や題名がその本の中に書かれていない本)が、全国各地からすべて集められている。そしてそれ以外は置いていない。この図書館には目録がある。さて、この目録にはその目録自体を載せられるか?
なおこの目録とは、その図書館にある本の題名をすべて記した本のことである。
目録も図書館の一冊なので、名前を載せる必要があります。けれどもそうすると、この図書館に置くことができなくなります。
一方、目録から目録の名前を消すと、今度は目録が「自分のことについて書かれていない本」になります。よって、この図書館に置かなくてはなりません。(そうした本は「すべて」とあるので)
目録は、図書館を行ったり来たりすることになります。これは矛盾です。
2 床屋のパラドクス
ある村の床屋は一人で、自分でひげをそらない村人のひげをすべてそり、自分でひげをそる村人のひげはそらない。
その床屋は、自分のひげをそるか?
床屋が自分のひげをそろうとすると、自分自身が「自分でひげをそる村人」になり、そることができません。しかしそらないと、今度は「自分でひげをそらない村人」になり、そらなくてはなりません。
床屋の手がプルプルしている様子が目に浮かびます(笑)
3 市長のパラドクス
自分が市長をしている市に住んでいない市長を世界中から集めて、A市を作る。A市には、前述の市長のみが住み、しかも一人残らず住む。
A市についての市長はA市に住めるか?
A市の市長は、A市の外に住まなくてはなりません。けれどもA市を出ると、「自分が市長をしている市に住んでいない市長」になり、またA市に呼び出されます(「すべて」とあるので)。で、A市から追い出されます。これの繰り返し。矛盾です。
4 1の変形(自分自身を含む場合)
ある図書館には、そこにある本の内容がすべて書き込まれた本Xがある。
そんなことは可能か?
Xに、まずその図書館にある本(仮にA、Bの2冊)の内容が書き込まれる。
つまり、{A、B}である。
つぎに、X自身も図書館の一冊なので、それも書き込まなくてはならない。
つまり、{A、B、X}である。
これは、{A、B、A、B}のこと。
さて、この内容こそが、Xであるなら、さっき書いたのではなくて、こちらをXには書き込まなくてはならない。
つまり、
{A、B、A、B、X}
={A、B、A、B、{A、B、A、B、X}}
=……
となり、永久に書き終わらない。
5 犬そのもの(テキストにある例)
Xは「犬ではないものすべて」の集まりである。
この「犬ではないものすべての集まり」もまた、1つの「犬ではないもの」である。
とすると、Xにどんなことが起こるか?
X={猫の集合、食器の集合…、X}
X={猫の集合、食器の集合…、{猫の集合、食器の集合…、X}}
X={猫の集合、食器の集合…、猫の集合、食器の集合…、{猫の集合、食器の集合…、{猫の集合、食器の集合…、X}}
…
となり、無限増殖する。
受講生も、「なんでラッセルはこんな変なことを考えたんだろう?」と言いつつも、それぞれのパラドックスに興味を抱いてくれたようでした。
ラッセルの話をまとめると、次のようになります。(上の例では1~3)
「自分自身を要素として持たない集合の集合」を、ラッセル集合と定義する。(1)
ここで、Xを登場させます。Xはまだ正体不明です。
そして(1)から、
「Xは、ラッセル集合の要素である」⇔「Xは、Xの要素ではない」(2)
と書けます。
【補足】
AならばBを、A→B
BならばAを、A←B
と書き、その両方を満たすなら、
AとBは同値(同じ内容)で、
A⇔B
と書きます。
さて、Xの正体を実は「ラッセル集合」だとします。
つまり、
(2)で、X=「ラッセル集合」(という言葉)を代入します。
すると…
「Xは、ラッセル集合の要素である」⇔「Xは、Xの要素ではない」
「ラッセル集合は、ラッセル集合の要素である」⇔「ラッセル集合は、ラッセル集合の要素ではない」
はい。
このように、最後の文章で矛盾が生じました。
ラッセル集合は、AでありAでないと言っているからです。
次回は、「第九週」の続きを読みます。