福西です。
『無限論の教室』(野矢茂樹、講談社現代新書)の「第7週」を読みました。
今回の主役は、部分集合です。
その名の通り、集合の要素を一部分だけ抽出した集合のことです。
無限集合から作った部分集合もまた、無限集合になることがよくあります。
たとえば、自然数は実数の部分集合です。そして、無限集合です。
そして、つぎにべき集合という概念を考えました。
「ある集合に対して、その要素を使って考えうる部分集合のすべて(を要素に持つ集合)」のことです。
たとえば、
集合A={1、3、5、7、9}
に対して、その要素を使って考えうる部分集合のすべては、
・要素が0個(何も選ばない)
{} 空集合
・要素が1個
{1}{3}{5}{7}{9}
・要素が2個
{1、3} {1、5} {1、7} {1、9}
{3、5} {3、7} {3、9}
{5、7} {5、9}
{7、9}
・要素が3つ
{1、3、5} {1、3、7} {1、3、9}
{1、5、7} {1、5、9}
{1、7、9}
{3、5、7} {3、5、9}
{3、7、9}
{5、7、9}
・要素が4つ
{1、3、5、7} {1、3、5、9} {1、3、7、9}
{1、5、7、9}
{3、5、7、9}
・要素が5つ(全部を選ぶ)
{1、3、5、7、9} 全集合
以上、計32個あります。
この32個の集合すべてを要素として持つ集合のことを、べき集合と呼びます。
もとになった集合Aと別物であることに注意して下さい。
Aは、{1、3、5、7、9}
で、
Aのべき集合は、
{ {} {1}{3}{5}{7}{9} {1、3} {1、5} {1、7} {1、9} {3、5} {3、7} {3、9} {5、7} {5、9} {7、9} {1、3、5} {1、3、7} {1、3、9} {1、5、7} {1、5、9} {1、7、9} {3、5、7} {3、5、9} {3、7、9} {5、7、9} {1、3、5、7} {1、3、5、9} {1、3、7、9} {1、5、7、9} {3、5、7、9} {1、3、5、7、9} }
です。いわば集合の集合です。
授業では、このような有限の場合でべき集合を作る演習をしました。
ところで、べき集合の要素を具体的に全部書きだすのはしんどいですが、その総数が32だということは、次のようなアイデアですぐに調べられます。
1 3 5 7 9
{□|□|□|□|□}
□にスイッチがあると思ってください。
ON/OFFで、ONならその数を入れます。OFFならその数を入れません。
たとえば、
{ON|ON|OFF|OFF|OFF}
なら、
{1、3}
を作ることになります。
要するに、1つの要素に対してON/OFの2通りの選択肢があるので、スイッチの数だけそのかけ算、
2×2×2×2×2 (2の5乗)
=32
通りあるとわかります。
これが、べき集合の「べき」の名前の由来です。同じ数をかける「~乗」のことを、数学では「べき」と言います。
もとの集合の要素が1個増えるごとに、べき集合の要素は2倍になり、爆発的に増えることが分かると思います。
そしてこの爆発的に増える要素の個数が、べき集合の濃度です。この勢いをもってして、実数よりも濃い濃度を達成できないか、が今週のテーマでした。
(ちなみに2次元、3次元、4次元…と集合の次元を上げても、実数より濃くできないことは、「第4週」でみました)
自然数のべき集合は、2×2×2×2…を無限回した個数の要素を持つことになります。
その要素の数(濃度)は、実数のそれと同じになります。
さらに、実数のべき集合を考えます。
濃度について、実数のべき集合が実数よりも濃いことは、対角線論法で証明できます。(「自然数と実数」のときとパターンは同じです)。
結果だけまとめると、
濃度については、
自然数<自然数のべき集合=実数<実数のべき集合
この後も続けることができて、
実数のべき集合<実数のべき集合のべき集合<実数のべき集合のべき集合のべき集合<…
こうして、次元では突破できなかった濃度の壁が、「部分集合全部」(=べき)という概念で突破できました。
(ただしカントールの、実無限の立場です)