「山びこ通信」2018年度号より下記の記事を転載致します。
『ラテン語初級文法』『ラテン語初級講読A・B』
担当 山下大吾
去年の秋学期に2学期制で開講された初級文法クラスは、CaiさんとMさんのお二方と共に計画通りに課程を進行中で、ラテン語特有の文法とも言える独立奪格構文も無事消化し、間もなく教科書を一冊「あげる」段階になってきました。教科書として用いている『ラテン語初歩 改訂版』にも『ガリア戦記』などのテクストが掲載されておりますが、この調子が維持されればその他にも比較的易しいレベルの原典講読の時間が設けられそうです。ラテン語文法を一通り勉強し終えたという達成感に加え、腕試しとも言える原典との対話の時間を今から楽しみにしております。
講読クラスは、A、Cクラスが散文のキケロー、Bクラスが韻文のウェルギリウスという内容です。なお『義務について』を読み進めているCクラスは、残念ながら受講生のご都合がつかず、開講されない状態が続いております。
Aクラスでは去年から引き続き『友情について』を読み進めています。この原稿を記している時点で77節まで進みましたので、全体の4分の3以上を読了したことになります。受講生Cuさんの読みは文法的な正確さのみならず、神話や伝説に由来するエピソードが述べられた場合、各種辞典や文献などを用いて、ホメーロスなどの出典にまで遡って確認されるという幅広さで、キケローのテクストを最大限活用した高度な読書に勤しんでおられます。
Bクラスでは前号の「山びこ通信」でお伝えした講読予定の作品『牧歌』の読了が間近となりました。受講生のCacさんは、以前講読していたホラーティウスの時と同じく、韻律に注意しながらテクストを噛みしめる様に読み進められ、訳読される際には、註釈で述べられている問題を十分咀嚼した訳を与えられるという堅実な姿勢を維持されておられます。次の作品は、同じウェルギリウスの『農耕詩』を予定しております。
本来Vergiliusである彼の名前が、英語など現代語で見られる綴りVirgilへと変化している所以は、『牧歌』を始め彼の作品全体から受ける純粋で高潔な印象が、第四歌に対する、イエスの到来を予言するというアウグスティヌス以来の解釈も相俟って、virgo「乙女(あるいは聖母)」のイメージと結びついたためだと言われています。その印象を十分感じながらも、牧歌というジャンルの先行者テオクリトスを意識し敷衍しながら、同時代であるローマの主題を織り込んで独自の世界を創造していく彼の姿に、音声的効果を意識しつつ、トリコーロンやキアスムスなど個々の詩行に見られる精細な語の配置から、それぞれの歌と他の歌とのダイナミックな対応関係など、『牧歌』全体に渡る巨視的な配慮を常に失うことなく、ラテン語の持てる力を余すところなく発揮して作品を仕上げていく彼の力量にむしろ感銘を受けながら、毎週講読を続けております。